朝の20分、飲みごろの熱さになったコーヒーを啜って新聞のページを繰る。仕事に出る前のゆっくりしたひと時である。朝くらい良いニュースに接してよい気分でスタートしたいものだが、なかなかそうはゆかない。
 ほかの都市のことは分からないがシカゴでは悪評高い、ストリートの駐車料金を支払うペイ・ボックスが一ブロックに二基ずつ設置されている。ここにコインかクレジット・カードで料金を払い込み、吐き出された領収チケットを車のフロントに提示しておくという代物だが、シカゴ市が財政赤字を削減するために窮余の一策とパーキングメーターの権利を個人会社に75年間の契約で渡してしまい、市はすでにこの収入のほとんどを使い果たしてしまっている。
 今朝のニュースではこの料金箱がここ3週間の間20基も盗まれており発見されたのは4基だけ。この料金箱の重さは約200ポンド、プラス払い込まれた25セントコインの重量で、それがサイドウォークにコンクリートのベースにしっかり固定されて、そんなに簡単にはずせるとは思えないし、その労力に見合うほどのコインが貯まっているとも思えないのだが、20基も盗まれたということはそれなりに「塵も積もれば…」で馬鹿にできない収穫があったのだろう。
 「人をあやめて盗むよりは罪が軽い」とは友人の言である。料金箱の収入が生活の糧なのかドラッグになったかは知らないが、泥棒も骨の折れる仕事になってきた。
 ウォール・ストリートはいざ知らず、一般市民の経済状態は冷え込んでいる。企業の倒産やダウンサイズで失業率は一向に下がらない。オバマ政権にかけられた期待が失望に変わりつつあるこのごろ、盗まねば生きてゆけない国民が増えてきているのだろう。
 来月はまた選挙。民主も共和もグリーン・パーティも勢力拡大に余念がない。減税、失業率の低下、教育の充実、医療保険の改革、いろいろな公約は挙げてくれるが、市の警備を警察から私設の警備保障会社に移すという心細い話が出ている今日、誰か「泥棒を減らします」と公約してくれる候補者はいないものだろうか。【川口加代子】

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