昔、多感な青年期に進路問題で父親と確執、美大受験失敗、そして失恋と…ワン・ツー・スリー・パンチを食らった。1年ほど家出もした。東京の片隅で青年を救ったのは映画であった。ラブ・ロマンス、悲劇&喜劇、ミュ―ジカル、社会派ドラマ、戦争アクション、SF、殺人ミステリー…あらゆるジャンルの作品を見ては感動し、驚嘆し、考え、苦しみ、悩み、時には笑い、楽しみ、「たかが映画」ながら「絶望感から生きる価値と意味」を学んだ。
 映画館は傷や辛さ、寂しさを癒してくれる安心で安全な現実逃避ができる一種の防空壕だった。無駄な時間のようだったが、精一杯もがいた結果、映画青年へと成長させていた。
 憧れのアメリカに渡り、見る側から作る側へと意欲がわきUCLAのフィルムスクールで学ぶ機会を得た。
 卒業して15年経つが、振り返って見ると、一番印象に残るクラスは「フィルム・ストラクチャー」と言われるハワード・スーバー名誉教授の講義だった。映画を勉強しようと世界中から集まってきた生徒たちは、かなりの熱狂的映画博識者ばかりであった。ところが「映画」を学問として徹底的に分析、検証を重ね、とことん掘り下げて行く教授の解説によって、生徒たちは度肝を抜かれ、唖然とした。ショックの連続だった。ほぼすべてのハリウッド名画の常識をくつがえす理論を目の当たりにしたからだ。
 映画の「謎」や「秘密」が解き明かされ、さらに「不思議な映画の魅力」が再認識された。まるで人生の哲学の授業だった。「たかが映画」を超越していた。そのスーバー教授著書の日本語版「パワー・オブ・フィルム~名画の法則~」が出版された。
 これから映画業界を目指す若い学生たちに、往年の映画ファン、そして映画に取りつかれたすべての人たちへの本である。ますます映画の素晴らしさを見つけるヒントを分かちあえたら幸いである。【長土居政史】

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