私は今月はじめ、一週間だけ日本(東京)へ行ってきた。
私の実家のすぐ近くに建設中の「東京スカイツリー」はすでに高さ500メートルに達し、付近の街並みや下町の住宅街を圧倒していた。このタワーの建設地は戦後の混乱期、私たち『ワルガキ』の遊び場だったところであり、あんなところに近い将来、日本、いや世界の新名所が完成するのかと思うと不思議な気持ちだ。
ところで、今回の日本行きは一人旅だったが、私は東京滞在中、不覚にも地下鉄のホームで突然意識を失い、倒れてしまうという失態を演じてしまった。こんなことは私の生涯ではじめてのことだ。
その日は多少貧血気味だったようで、歩きが多少おぼつかない感じがしていた。エスカレーターのない駅だったので、脇の手すりを頼りに地下鉄のホームまでたどり着き、歩きはじめたところで全身から力が抜けホーム上に崩れ込んでしまったのだ。昼間のホームには待ち乗客はほとんどいず、私の近くにいたのは若い女性と中年の婦人だけで、二人はすぐに私に声をかけてくれ、私の腕をとって立ち上がらせようとしてくれたり、「駅員さんを呼びましょう」と話す声が聞こえていたのをわずかに覚えている。
数秒のちになって、私もようやく意識が回復し、自分がホームの線路に近い黄色帯の上に倒れていることを知り、まずは自力でホーム上を線路から離れたほうへ這い、先の二人の女性に腕を抱えてもらい立ち上がった次第だった。ホームのベンチに腰をおろし休憩し、4、5本の電車をやり過ごした頃にようやく体調も安定し、駅員さんにも、救急車にもお世話にならずに済んだ。二人の女性は私がホームのベンチで休んでいる間中、自分たちも乗る電車をやり過ごし私に付き添ってくれた。私は日本人の思いやりの心をあらためて知らされた思いだった。とはいいながら、外で他人さまに迷惑をかけてしまったことは私の不覚であり、自分自身の年齢、体調を謙虚に見直さねばならぬことをあらためて痛感させられた一大事だった。これからは少なくとも駅のホームでは線路から離れて歩くことにしよう。【河合将介】