私の日本の実家(東京都墨田区)のすぐ近くで建設中の「東京スカイツリー」は2012年5月の開業にむけて着々と準備が進行中だ。東京下町に誕生する新名所は一般公開が始まったら多くの見物客でごったがえすことだろう。しかし、この巨大電波塔の出現は私の大好きだった東京・下町の伝統文化や風情を確実に破壊することは目に見えている。
東京・下町の情緒とは思いやりの精神だと信じてやまないのだが、最近受信した幼馴染みの友人からの情報によると、いまやそんな思いやり、心遣いなど、少なくとも表通りからは消えうせてしまっているという。
それでもまだ、一歩狭い脇道に入れば鉢植えの花木を並べ、人情あふれるたたずまいもあり、また誰とでも気さくに言葉をかけられる雰囲気が漂うところも残っているようで、この風情だけはぜひ残してほしい。
日本的発想とは、見えないまたは表に現れていないものも含めて、全体を心と感性で捉えようとする発想ではないだろうか。相手に対する心くばりを重視し、ご近所もひとつの家族として譲り合い、いたわりあうのが日本であり、特に東京下町の特徴だ。お隣の子供が世間の常識に反することをしたら、実の親と同様に叱ってくれる気遣いこそ日本のよき風習のはずだ。
国際社会の中で生きる日本だからこそ、日本固有の文化は大切にしなければならないと思う。最近の教育・生活環境に慣れた若い日本人は自分の意見や主義主張を持つようになっており、これはこれで結構なことだが、その根底にはいわゆる日本的発想もしっかり根付いたものであってほしい。ただし、多くを語らなくとも 互いに理解し、察しあえるという素晴らしい日本古来の美点も、いったん海外に出ると、今度はそれが大変な誤解の根源になり、「あの日本人は何を考えているのだ」といわれたり、ひどい時は「完全無視」されるのも確かだ。
日本的発想の美点は残しつつ、国際社会の中で尊敬され生き続けるにはどうすればよいか、日本がこれから生き続けるための 私たちに与えられたテーマのような気がしてならない。【河合将介】