新しい年を迎えるにあたり、謹んで新春のごあいさつを申し上げます。
 楽しいこと、悲しいこと、人それぞれにさまざまな体験をしてきた過ぎこし1年。年が改まったからといって、すべてが朝霞のごとく消えるはずもありませんが、この一年を回顧しようとすれば、どうしてもあの3月11日を忘れることはできません。
 マグニチュード9.1という、史上最大規模の東日本大震災。地震と津波と、それに端を発した福島原発事故。大津波にすべてがのみ込まれていく光景、破壊された原子力発電所。映画のシーンではなく、現実に起きた大惨事だということを心底、理解するには、かなりの時間と心の整理が必要となりました。
 本紙の、新年懸賞文芸作品にも大震災に関連した作品が数多く寄せられました。アメリカに住む日本人の、被災者たちに寄せる思いは 計り知れないものがあることが容易に察しられます。今回の震災は、私たちに人の絆の大切さを改めて教えてくれました。いのちの尊さ、人間の優しさ、助け合うことのすばらしさ、人はお互いにかかわりあって生きていくのだという、日々の姿勢が問われたできごとでした。
 12月30日現在で、1万5844人の犠牲者が確認され、今なお3451人の方々が行方不明のままです。いまだに正確な状況が掴めない放射能事故の深刻さ。目には見えない放射能。その影響は今すぐには分からないといわれています。
 一般に、原発は100パーセント安全というわけではなく、なにやら恐ろしいものとの認識があります。専門的なことは極めて限られた人にしか分からないのですが、 原子力の平和利用といわれれば、そういうものかとも思います。
 原子力発電による生活の豊かさ、便利さを享受してきた私たちは、原発事故の加害者なのか、被害者なのか。その責任のありかたも、私たちははっり認識していないといえます。電気は必要なだけ供給されて当たり前と思っていた感覚の誤りに気づかされて、右往左往といったところでしょうか。
 こうした厳しい境遇の中でも、生きる希望を持ち続け、復興に全力を挙げている人たちがいます。被災者に温かい支援の手を送り続けている人たちもいます。ヒラリー・クリントン国務長官も暮れの23日、日本向けメッセージの中で、「大震災の際に、日本国民の示した秩序ある行動と不屈の精神が、世界を鼓舞した」と称え、「この危機を乗り越えて、人々の絆はより強いものになるだろう」と強調しています。
 「あれほどの混乱の中でも暴動や略奪が起こらない。それどころか、マーケットでは顧客が棚から落ちた商品を棚に戻して通路を空け、レジでは一列に並んで代金を支払っていく正直さ、マナーのよさ」が、驚きと賞賛をもって諸外国で伝えられていたように、日本人は本来、礼節をわきまえ、秩序を大切にし、良識を持って行動するというすぐれた性質のDNAを基本的に持ち合わせているのかもしれません。
 もちろん、例外もあり、日本人に限らず、人には長所短所があります。「人が良識の持ち主だと判断する相手は、ほとんどその人と同意見の人々に限られている」ともいえます。大震災に遭遇し、大混乱の中で日本人のとった良識ある行動が、世界中から賞賛された事実はとてつもなく大きいと思います。
 さて、2012年は、国民生活にさまざまな影響を及ぼす大統領選が行なわれます。どの政党の誰が大統領になるかは、自分の生活にとってあまり関係ないという人もいます。しかし、本当は直接、間接に私たちの生活に大いに関係してきます。誰を選ぶかは非常に大切な選択なのです。政治家に期待するのは無理があるかもしれませんが、誠実で、正直で、良識と実行力のある人に、大統領になってほしいものです。
 まだまだ景気の先行きは不透明です。こうしたなか、人びとが絆を深めていき、新年がどなた様にとりましても健康で輝かしい年になりますよう、年頭に当たり心より祈念いたします。【石原 嵩】

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