現代社会最高の頭脳を持つとされる「車椅子の物理学者」スティーヴン・ホーキング博士が1月8日、日本流に言えば、古希を迎えた。
博士が不治の病とされる筋萎縮性側索硬化症(ALS=通称、ルー・ゲーリック病)と診断されたのは、ケンブリッジ大学大学院応用数学・理論物理学科に進んで1年たった20歳の時だった。
この病は、重篤な筋肉の萎縮と筋力の低下をきたす。患者の半数が発症後3年から5年の内に呼吸筋マヒで死亡するとされる。その意味では発病後50年も生き続けている博士は例外中の例外だ。
まず、驚嘆すべきは、不自由な身体の中でスーパーコンピュータのような頭脳が、どっこい生き続けていることだ。しかもその頭脳を支え続ける博士の強靭な精神力と行動力。世界中をプライベート・ジェット機で飛び回る。
しかも、凡人には全く理解できないような「特異点定理」だとか、「無境界仮説」といった宇宙のナゾを説くカギを次から次へと発見する堅物天才と思いきや。
人生経験は豊かだ。結婚2回、離婚2回と、共和党大統領候補の一人、ギングリッチ元下院議長に負けず劣らずの「女性遍歴」。息子2人、娘1人の父親。お孫さんも3人いる。
70年を振り返って、最善の瞬間はいつだったか、と尋ねられて、博士は、「1967年だ。長男のロバートが生まれた、あの瞬間だね。可能ならあの日に戻ってみたいもんだ。子供は私に喜びを与えてくれたんだ」(”Stephen Hawking: An Unfettered Mind,” Kitty Ferguson)。父性愛がほとばしる。
一日中なにについて一番考えているのか、と聞かれた博士は、「女性のこと。女性は完璧なる神秘(complete mystery)だ」と笑った。
今年打ち上げ予定のバージン・ギャラティックの宇宙船に乗り込む。
死後の世界も天国も信じないという博士にとって、この宇宙旅行は人生の総決算なのかもしれない。【高濱 賛】