昨年の東日本大震災で引き起こされた福島第1原子力発電所の事故は、国民に原子力行政に対する不信感を抱かせ、日本に深刻な電力危機をもたらした。原子力発電所は定期的に検査のために運転を中止するが、定期点検後も再開に必要な地元の理解が得られず立ち往生している。5月5日に北海道電力泊原子力発電所3号機が停止して日本の原発54基がすべて止まってしまった。
 電力は国の産業や国民生活の最も重要なインフラである。昨夏は国民や企業の涙ぐましい努力のおかげで一部の計画停電で乗り切ったが、その後停止した原発の発電能力を補い夏場の電力危機を乗り切るのは並大抵ではない。多くの企業が電力不安に海外へ工場を移した。この事態を招いたのは政府の危機対応のまずさとチェックシステムの不備、安全神話で自己権益を守ってきた業界や原子力村の人たちが原因だと指摘され、原発再開に国民の理解が得られない。
 この電力危機に日本でも本格的に再生可能エネルギーの推進へと政府は大きく舵を切った。主要な開発の促進策は、7月から始まる電力買取り制度「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」である。骨子は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス発電による電力を20年間一定の価格で買上げを保証する制度だ。当然これらのコストアップは電気料値上げとなって国民や企業に跳ね返ってくる。
 補助金や電力買取り制度で開発を促す代わりに、業界は安全で安心な3者機関の認証を受けた機器と十分な技術を備えた設置業者の認証が義務つけられる。認証機関の選定や基準作り、電力会社の受入れシステムなど課題は山積しているが、これらが定着してエネルギーを自国で調達出来れば、日本にとっては国防面からも大きな意義がある。石油やLPGガスなどの化石燃料は政情不安定なホルムズ海峡や海洋権益で争いが激化するアジアの海を運ばねばならないからである。
 原発推進から再生可能エネルギー推進へ、この流れが根付くどうかは日本のエネルギー政策だけでなく、産業インフラ基盤の安定として大きな意義がある。【若尾龍彦】

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