
全米で新生児の約3000人に1人が診断される病気でありながら、認知度があまり高くない進行性の難病「神経線維腫症」(通称NF=Neurofibromatosis)と診断されたサウザンドオークス在住の芥川ダイアン貴身さん。治療薬がまだ開発されていない中、1人でも多くの人にNFのことを知ってもらいたいと、自身の体験を語ってくれた。【中村良子、写真も】
子供のころから健康で、大きな病気は特にしたことがなかった貴身さんだったが、生まれたころから体中に無数のあざのような、そばかすのような斑点があった。10代になると、斑点に加え虫刺されのような皮膚の膨らみが体の一部にでき始めるが、にきびの一種だろうと特に気には留めていなかった。
思春期を迎えたころ、人目を気にして肌を隠すようになり、斑点だけでも除去したいと美容整形外科でコンサルテーションを受けた。最終的に手術は受けなかったが、美容外科医をはじめ、かかりつけの医師も、体の斑点と皮膚の膨らみを問題視する人は当時、誰もいなかった。
「人目が気になって肌の露出が少ない服を着たりしていたけれど、痛くもかゆくもなかったし、できものも小さかったので病気だとは思いもしなかった」と振り返る。
その後皮膚の膨らみは増え続け、一部に傷みを感じ始めた。主治医に膨らみを除去したいと申し出ると、初めて病気の可能性を指摘された。5年前、29歳の時だった。
「医師から『神経線維腫症かもしれない』と言われた時、思わず『神経…何?』と聞き返したほど、一度も聞いたことのない病名だった」
NF(神経線維腫症)とは

帰宅後すぐにネットで検索した。神経線維腫症(NF)は進行型の遺伝疾患だが、患者の半数は突然変異により発症する。NFと診断された人の子供がNFになる確率は50%。人種、性別に関係なく誰にでも起こりうる病気という。
NFには1型、2型、シュワノマトーシスの3種類あり、1型は新生児の3000人に1人が診断され、体に腫瘍や色素斑(カフェオレ斑)ができ、骨や背骨の変形もみられる。腫瘍は脳や脊髄にできることもあり、患者の半数に学習障害が見られる。
2型は新生児の2万5000人に1人が診断され、脳神経や脊髄などに腫瘍ができ、多くが聴力を失う。
シュワノマトーシスは最近発見されたばかりで、症状は患者によりさまざま。多くが痛みを伴い、4万人に1人が診断されると言われている。
特定の遺伝子の変異により起こること以外原因は分かっておらず、治療薬もない。現段階では腫瘍を手術で取り除くことが唯一の治療法だが、次から次へと腫瘍ができるなど、何度も手術を受けなければならない上、腫瘍ができる場所によっては失明や歩行困難になる患者もいる。
これら症状から貴身さんは、自身がNF1型であると確信。NFをよく知る医師はあまり多くないことも分かり、診断が遅れたことに納得した。
「ネットで検索中、NF患者のイメージをクリックすると、体中を無数の腫瘍に覆われた人や、顔面にできた腫瘍のせいで顔が変形してしまった人の写真など、思わず目を背けたくなるほど痛々しいものばかりでした。まるで自分の行く末を見ているようで、恐怖とショックから涙が止まりませんでした」
専門医による検査の結果、正式にNF1型であると診断された。貴身さんの両親はともにNFではなく、突然変異であることも分かった。
幸い貴身さんの症状は軽度で腫瘍も小さく、現段階で学習障害の兆候はない。医師の話では、進行型の病気ではあるが、症状は実にさまざまで、今後、貴身さんが写真で見たような症状になるとは限らないという。
一方で、まだ治療法や薬が見つかっていない今、はっきりしたことは分からず、毎年の健康診断に加え2年に一度のMRIで腫瘍の経過をみていくことになる。
貴身さんも今までに大小さまざまな腫瘍除去手術を2回受けた。摘出した腫瘍は10個に上るが、幸いがん性ではなかった。
NF患者のサポートに

不安がぬぐいきれなかった貴身さんは、他にも同じようにNFと闘う人がいるのではないかとネットで検索してみると、いくつかのグループがヒットした。またフェイスブックにも数えきれないほどのサポートグループやフォーラムがあり、驚いたという。
「NFについて調べていくうちに、私よりもっと症状が重く、腫瘍ががん性で亡くなった人など、辛い思いをしている人がたくさんいることが分かった」
多くの人の話を読んでいくうちに、「自分の症状は軽度で、まだ恵まれている。壮絶な闘病生活をしている人のためにも、また将来の自分のためにも、今私にできることをしたい」と、彼らのサポート、また治療法や治療薬を見つけるための研究費集め運動に参加するようになった。
NFの認知度を高め、医師や患者、社会に最新情報を発信、またNFと闘う人の支援に力を入れる非営利団体「Children’s Tumor Foundation(CTF)」が毎年開催するウォークに、貴身さんは自分のチーム「Team Twinkie」を作って昨年から参加している。
フェイスブックやウォークで出会った人とは頻繁にコミュニケーションを取り、同じ病気と闘うもの同士前向きに支え合っている。
「私も将来子供がほしいと思っているので、それまでに治療法や薬が見つかってくれれば、自分の子供がNFにかかる可能性を止めることができる」と願いつつ、これからもあらゆる形の支援を続けていくつもりだという。
貴身さんは自身のフェイスブックでもNFに関する情報を発信している。「研究費用を集めるのも重要だけれど、1人でも多くの人がNFという言葉を耳にし、NFについて知ってもらうことが、私にとってはもっと大切。もし、1人で苦しんでいる人がいたら、また知り合いにNFの人がいたら、私たちがここにいることを知ってもらいたい」
貴身さんのフェイスブックではNFのさまざまなイベントやフォーラムの情報が確認できる。アドレスは―
www.facebook.com/DianeKimi
またNFに関する詳細は、CTFのホームページで―
www.ctf.org