日系アメリカ人政治学者、フランシス・ヨシヒロ・フクヤマ博士の新著、『The Origins of Political Order』が面白い。
 博士は、1989年、『歴史の終わり』で脚光を浴びた。当時全盛だった「ネオコン」(新保守主義)を代表する政治思想家として持てはやされた。
 が、03年頃からネオコンとの距離をおき始める。ブッシュ政権のイラク戦争を激しく非難。言論界の一部からは「ご都合主義だ」とたたかれた。
 『歴史の終わり』以降も、世界は異文化間の衝突に明け暮れ、冷戦の勝利者だったはずの「西欧型民主主義国家」も自己矛盾にもがき苦しんでいる。
 博士は、その要因を「政治秩序の起源」に求めた。
 博士によれば、国家たる集団には三つの柱が不可欠だ。一つは領土統一を可能にするパワー(A strong state)。第二は統治者を抑制しうる「法の支配」(Rule of Law)。第三は国民に対する統治者の説明責任(Accountability)だ。このうち一つでも欠けると、国家は崩壊してしまう。
 マグナカルタ(大憲章、1215年)制定の7年後には、それに優るとも劣らぬ「黄金教書」(Golden Bull)を制定したハンガリー王国。が、大英帝国のようにはなれなかった。貴族たちが自らの利益追求に走り、国王をないがしろにしたからだ、と博士は言い切る。
 共産党一党支配を続ける中華人民共和国も俎上に乗せる。
 「中国には統治者による『説明責任』も『法の支配』もないのに政治的安定が保たれている。未来永劫、現体制を堅持しながら国家の安定を維持できるのだろうか」
 本書(2巻からなる第1巻)では問題提起で終わっている。
 が、さる4月29日、シアトルで行なった講演で、博士は「近い将来、中国で大きな政治変動が起こる」と予言している。
 博士の頭の中では、すでに〈「法の支配」なき、「説明責任」なき国家に明日はない〉という結論が出ているのだろう。【高濱 賛】

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