美しい夕陽が自慢の土地は、少なくない。中でも、赤い大きな夕陽が海に沈むさまは特別華やかだ。台湾を旅した時は、淡水の夕陽の美しさを土地の人が自慢していた。フランスへと誘う海外旅行カタログは、夕陽のモンサンミシェルの魅力を語っている。
 九州・福岡の海辺の町を歩いていて、夕陽風景時計に出合った。病院での父の付き添いの合間に早朝、思いついて浜辺へ足を伸ばしたときのこと。寄せては返す波を眺めながら堤防沿いに歩いていると、向こうから来る人が私の持つカメラに気づき、写真を撮るならぜひこの土地の夕陽をと勧める。「橋の向こうには時計もあるから」と。
 日を変えて再度出直し、その「時計」を見ることが出来た。中川という小さな川が玄界灘に流れ込む河口の砂浜に、夕陽風景時計はあった。その扇状の台の表面には、遠くに見える島々の姿や名が記され、観光展望図でもある。そこに、夕陽の沈む方位と時刻が月日により一目で分かる図が、刻まれていた。
 設置されたのは昨年春。散歩を毎日続けたくなるような楽しみが欲しいとの高齢者の声がきっかけで計画され、ボランティアの奔走で完成したという。「海岸から眺める夕陽の美しさを、子供たちにもっと知ってほしい」との声に応え、地元小学校の児童たちも台座に貝殻を貼り付けるなど協力。「私たちの市の美しい夕陽を見に来ませんか」と、市役所のウエブサイトは呼びかけている。
 午後の海辺は三々五々、砂遊びをする親子連れや突堤から釣り糸を垂れる太公望、自転車を走らせる少年、散歩を楽しむ人々の憩いの場所となっていた。ごみ一つ見えない清潔な浜は、ボランティアによる清掃活動の成果でもあるらしい。海を誇りとするコミュニティーの心意気を見たようで快く、私は精気を貰ってまた病院へと戻った。福岡市の10マイル北東、古賀という場所での出来事だ。
 6月21日は、夏至。日足が伸びるにつれ夕陽の沈む場所もこれまで北へ北へ移動していたが、明日からはまた少しずつ南へと動いて行く。【楠瀬明子】

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