日本人が生で話す日本語で、なにこれ? と引っかかる言葉使いを見聞きすることが増えている(と思う)、と言っても主観的な独断偏見と言われるかもしれないが。
テレビの生番組で若い芸能人がよく「お母さんがお弁当を作って下さいました」なんて言っている。何人もの似た例を見る。オイオイ、いい成人が…と目をパチクリしてしまう。外の人に向かって言っているのだからこれは「母が弁当を作ってくれました」くらいは言ってほしいが、そういう文化をまだ知らないということだろうか。
何でもかんでも人を「方」で呼ぶ人が増えている。ニュースに出た中年男性の通行人が「暴力団の方があっちに行きました」だと。この類いはよく聞く。暴力団の人間に対し、何も侮蔑的に連中とか奴らとかまで言わなくても良いが、丁寧語の「方」などで呼ぶことはない。この場合はまあ普通にせいぜい「人」でいいと思いますよ。この場合「方」は日本語としておかしいだけでなく、誰に対してでも「方」を使っていれば安全だという安易な自衛的な感覚があるのだろうか。
誰に対してでも「ご苦労さま」一本槍で言う人もどうなんだろうか。日本語の文化として微妙に引っかかる。「ご苦労さま」は基本的に上から言葉だから普通は目上の人や年長者に対しては言わない文化のはず。殿さまは家来に「ご苦労」とは言うが、家来が殿に「ご苦労さま」は言わない。「くろー」と一言だけ言う殿さまもいた。
社長は社員に「ご苦労さま」は言うが社員が社長にこれを言えば失礼だ。
これは日本の国語審議会や文部科学省も同じ見解を数度表明してはいる。誰にでもご苦労さまを言う人はその見解を採らないか知らないか、いずれにせよ堂々と使い続けるのは悪意はないようだが。
では社員から社長には何と言うか。これは「お疲れさまです」なり「お先に失礼します」など状況次第で諸々使い分ける分野だろう。
細かいことをいちいち人に言う気はなく、人の振り見てわが身を正し己がいかにあるべきかを考えたい。要は日本語文化の核は心であるから、それをおろそかにしたくないと思う。【半田俊夫】