この4月で『Metropolitan Opera – Live in HD』の2011〜12年シーズンが終わった。今回はわずかに二つしか見られなかったが、「ニーベルングの指輪」シリーズの最終章「神々の黄昏」、ナタリー・デセイ(ソプラノ)の「ラ・トラビアータ」が見られたからよしとしよう。
 デセイは僕の好きなソプラノ歌手の一人。小柄で細いから声量がないのがちょっと難点だが、高音部も柔らかで奇麗にのび、つい聞きほれる。低音部のちょっと鼻にかかった声もいい。もともと演劇から、すすめられて声楽に移ったという経歴の持ち主だから、演技も上々。一幕目で音をミスしたなと思ったら、全編声を抑えて歌っていた。幕間で「ゴメンナサイ」をしてたけど、咽を痛めてなければいいのだが…。
 「指輪」シリーズは、ロサンゼルスオペラは奇抜な舞台衣装で目を引き、メトオペラは重量級だが単純な(コンピュータ制御で段差、角度をつけられる柱群に、その場面にあう映像/イメージを映写)舞台装置で雰囲気を表わした。どちらも昔ながらの舞台装置や衣装を期待した観客には不評だったらしいが、メトオペラに関しては個人的にはOK。
 さて、今年も12〜13年度のスケジュールが発表された。ロサンゼルスオペラは舞台、メトオペラは舞台と「Live in HD」の両方。どちらもそれぞれのホームページで調べられる。
 LAオペラが9月15日から「二人のフォスカリ」「ドン・ジョヴァンニ」「蝶々夫人」「さまよえるオランダ人」「トスカ」など有名なオペラが続く。
 メトオペラはニューヨークまで行けないので今回もHD。10月13日から「愛の妙薬」「オテロ」「テンペスト」「皇帝ティートの慈悲」「アイダ」など12作品が予定されている。
 今までオペラに興味はなかったがこれから試してみたいという人に、『Live in HD』はおすすめ。本物の舞台より随分とお手頃の値段だし、見どころを重点的に見せてくれ、映画だという安心感? もある。半面、生の音楽や舞台の立体感、黒子さんの働き具合(映像以外の場所)などはやはり本物でないと楽しめないかな。【徳永憲治】

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