トランスジェンダーの息子エイダンさんとともに、一家の体験を語るマーシャ・アイズミさん(右)

 サウスベイ在住の日系3世マーシャ・アイズミさんと、女性から男性へ性転換した息子のエイダンさんが14日、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)について理解を深めるため、エイダンさんのカミングアウトから家族が経験した心情の移り変わりを赤裸々に語った。
【中村良子、写真も】
 
 同講演会は、日系市民協会ロサンゼルス・シングルス支部が主催、トーレンスのフェイス・ユナイテッドメソジスト教会で開催した。
 アイズミさんは、宮城県石巻市からアダプトした女の子にアシュリーと名付けた。しかしすぐに、娘がピンクやスカート、人形といった女の子が好むものを極度に拒むことに気付いた。「いずれ女の子らしくなるだろう」と、幼少期から小学校を乗り切ったが、思春期に入る中学が始まっても、依然「おてんば」のまま。当人も友人が異性を意識し始める中、どちらのグループにも属することができず、次第に居場所を失い孤立する日々が続いた。
4歳の時のエイダンさん。当時から女の子の好むものを拒んでいた

 「物心付いたころから女であることに違和感があった。だから、女の子と男の話や化粧、ファッションの話をするのがとても居心地悪かった」と、エイダンさんは当時を振り返る。一方で男の子のグループ内でも浮いた存在となり、「なぜ、自分がそう感じるのか理解できず、ひどい精神不安とパニックアタックに悩まされていた」。
 高校に入ると事はさらに悪化。いじめや暴力も激しさを増し、自殺を何度も考えた。16歳の時、母親にカミングアウトすることを決意。キリスト教の教会に通っていたため、ためらいはあった。しかし「受け入れてもらえないかもしれないという不安もあったが、それ以上に精神的に限界だった」。
 エイダンさんは、以前から女性に魅力を感じていることに気付いており、レズビアンとしてカミングアウトした。わが子の話を聞いたアイズミさんは、「『家族に恥をもたらすな』といった典型的な日系家庭に育ったので、初めは受け入れられなかった。正直、不快感と恥じらいから『レズビアン』という言葉を発することすらできなかった」と当時を振り返った。
 カミングアウト以来、エイダンさんは自分の居場所を求めLGBTのイベントに参加、引きこもりがちな生活から社交性を取り戻していった。そこでトランスジェンダー(体の性と心の性の不一致)の人たちと出会い、彼らの話を聞くにつれ、自分との共通点を見いだしていった。
 「その時、自分はレズビアンではなくトランスジェンダーであると確信した。そして(心と体を一致させるため)男性の体に近づくのが次のステップだと気付いた」という。20歳の時、家族に今度はトランスジェンダーとしてカミングアウトした。
アイズミさんとエイダンさん

 「レズビアンとしてカミングアウトした後、精神不安やパニックアタックが治り、すべてが解決すると思っていたけど、現実は何も変わらなかった。だから、今回もカミングアウトだけでは何も変わらないと分かっていたので、男性に近づくための手術を受けることに決めました」
 翌年、エイダンさんは乳房除去手術を受け、ホルモン剤注射を開始。ヒゲも生え、声も低くなり、体格も男性らしく変化した。下半身の手術の予定はないが、「やっと本来の自分の姿を手にした気持ち」と喜んだ。
 アイズミさんは、一時は命を絶とうとまで落ち込んだわが子に笑顔が戻ったのを見た時、恥らいや不快感がなくなった。「一番大切なものは家族。苦しんでいるわが子を救うためには、何でもするのが母親」
 以来、アイズミさんもLGBT支援イベントやトランスジェンダーの子供を持つ親の会に参加、理解を深めていった。皆のパーソナルストーリーを聞き学んだのは、「トランスジェンダーはその人の性的好みやライフスタイルではなく、その人そのものである」ということ。その時初めて、「長いこと女性の体で精神的に苦しい思いをしたことだろう」とわが子の痛みを理解したという。
 アイズミさんは自身の経験から、「差別や不快感は、その世界を知らないために感じるもの」と訴え、現在はLGBT社会を支援している。また、同社会にアジア人の姿が極端に少ないことから、全米支援団体「PFLAG」(Parents, Families, and Friends of Lesbians and Gays)のアジア人支部をサンゲーブルバレーに設立。アジア系社会にもLGBTへの理解を広める努力をするとともに、支援活動を行っている。
 同会のアドレスは―
 http://sgvapipflag.tumblr.com
 アイズミさんとエイダンさんは、一家の経験を書き留めた書籍「Two Spirits, One Heart」を出版。アマゾンおよび主な書店で扱っている。
 その他詳細はアイズミさんのホームページで―
 www.marshaaizumi.com

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