ここ7、8年、毎年日本からシカゴを訪れて夏の2カ月余りを過ごすご夫婦がいる。
ご主人はかつて名うての企業戦士でカリフォルニアとシカゴで合計10余年駐在員暮らしをされたが、帰国後は傘下の企業の社長を務め、引退後は大好きなジャズを楽しむための海外旅行が多く、シカゴ滞在もそのひとつである。
海外での生活に慣れていることもあるが、2人でバスや電車を乗り継いでどこへでも出かけ、地元に長く住んでいる私が知らない穴場(?)もよく知っていて驚かされる。
短期滞在者用の家具付きアパートを借りて、食事も近所のマーケットのみならず、朝市にまで出かけて買い物をしては奥さんが料理の腕を奮い、駐在当時の友人を招待して旧交を温める。
「日本でこんな話をすると、随分お金もかかるでしょうと言われるのですが、航空券はマイレージを貯めていますし、日本は物価が高くて食品などはこちらのほうが三分の二くらいです。私たちはアメリカにいる間にソーシャル・セキュリティを納めていましたから、年金が下りてくるんですよ。だから僕たちは、アメリカからもらうお金はアメリカで使うことにしているんです」とご主人が言うと、奥さんも「私たちシカゴが大好きなんです。いつも街のどこかで音楽会が開かれているし、特に夏の間は湿気の多い日本より過ごしやすいし、シカゴアンはフレンドリーですしね」と言葉をそえる。
自分の住んでいる街をお世辞抜きでそう言ってもらうのは、身内を褒めてもらうようでうれしいものである。「アメリカからもらうお金はアメリカで使う…」が耳にさわやか。単なる旅行者として訪問地を楽しむのではなく、いつも「またシカゴへ里帰りです」という2カ月間のシカゴ市民である。
最高気温が90度を超える日が44日もあった暑いシカゴの夏を存分に楽しんで2人はレイバーデーの翌日「10カ月したらまた会いましょう」と帰っていったが、翌日「日本の暑さに伸びてしまいました。早くシカゴに帰りたい」というEメールが届いた。
【川口加代子】