「やっと柿がいい色に熟したよ、採りにおいで」待っていた電話。友人間で電話網が回る。車で1時間半南下したオーシャンサイドの農場に集合だ。急いでポトラック用の料理を用意する。一年に一度の再会の日だ。
 カープールの車中は積もった話で花咲く。家族の近況、6日の大統領選挙の予測、最近の世情、読んだ本などなど。私以外は皆アメリカ人夫を持つ日本人妻のグループ。一匹狼で日本を背負い、アメリカで孤軍奮闘してきた日本女性たち。自分の意見をはっきり言う。人の噂話は一切しない。そんな余裕はない。自分の時間を生きることで一杯だ。気持ちよい。己を笑い飛ばす底力もある。生きた人生に満足感もある。夫の元に嫁いできた40数年前は周囲に日本人は全く居なかった。心細い日々の間にできた6人の仲間。今日までのさまざまな困難に支え合ってきた。
 農場に着くと、まず腹ごしらえ。秋風と一緒のパティオでの食事。笑い声が絶えない。農場の自然は心を癒してくれる。4エーカーの敷地。周囲を丘に囲まれ、中央には川が流れ、真ん中に大きな湖がある。湖に沿ってぶなの林。林の中の散歩道。丘の中腹に素朴なアドベスタイルの母屋がある。反対側の丘に何本もの柿の木。熟した実の重さでしなっている。秋の日を浴びて柿は鮮やかなオレンジ色に光る。
 採り始めると、たちまちのうちになん袋もいっぱいになった。流れる汗をふき、地面に座って、農場を眺める。自然に溶け込むような快感がある。湖は昨年に較べて濁ってきた。紫陽花の花で埋まっていた庭も、裸になって、針だけのサボテンだけが残っている。色が失せた。夫婦ふたりで創りあげた楽園は少しずつ変化する。無理もない。残された一人ぼっちの夫の心のように寂しげだ。ひっそりと消えていった友人の面影がそこここに残る。それでも夫は昔同様に亡き妻の友人を柿もぎに呼んでくれる。6人の仲間は今では4人になった。残った4人は柿が熟して地に落ちることにもう異論はない。手の中の柿はまるで小さな太陽のようでもあり、一つの命のようでもある。気持ちが柿色に染まって満ち足りる。
【萩野千鶴子】

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