日本書紀に、「西洲の宮に崩りましぬ。よりて日向の吾平山上陵に葬りまつる」と記されている吾平山上陵(あいらさんりょう)。上陵(りょう)とは、天皇や皇后のお墓の意味です。そこは、日本を初めて統一して大和朝廷をつくった神武天皇の父である盧茲草葺不合尊(うがやぶきゐえずのみこと)と、母である玉依姫命(たまよりひめのみこと)の埋葬地とされています。
吾平山上陵の伝承地にはさまざまな説がありますが、1874年に明治政府より今の鹿児島県吾平町が、その地として治定されました。農業や夫婦の和合そして安産の神として信仰されています。
深い木々と神聖な清流に守られた吾平山上陵の砂利道を歩きながら、神話の世界から現実の世界に至るまでの長い長い道のりを垣間見ました。
ゆっくりと肺の隅々にまで届く深呼吸をすると、太古の空気を吸い込むことができる場所です。
太古の空気は私たちを一瞬DNAの状態に戻し、生まれてきた理由を思い起こさせます。そして自分が次に進む道について思慮深く考えさせ、丁寧に生きる事の大切さを教えてくれます。
俗にいうパワースポットの効果はこういったことなのかもしれません。
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盧茲草葺不合尊は、自分の育ての親であり叔母でもある玉依姫命と結婚することで、神武天皇を生み出しました。
神話の世界では異類の者が結婚したとき、その違った文化や習性を見せることをタブーとします。そして、その習性が知れたときに元の世界に帰るという話が世界中の神話にあります。
日本民話で有名なのは鶴の恩返しです。そしてこの異類の者の子孫が、王朝や氏族の子孫となったという歴史伝承が多くあります。新しいものの誕生とは異類のものから生まれるという考えがあるからだと思われます。
常識にとらわれることをせず、常に新しい見地や異質交流の中から進む道を発見することは、太古の昔から持たれてきた発想でした。
私たちは昔から何を学び、そして未来へ何を残していくのでしょうか。数千年前から変わらない水の音色を背に、神話が教えてくれる時間でした。【朝倉巨瑞】