ベトナム戦争を描いた「プラトーン」などでアカデミー賞を受賞しているオリバー・ストーン監督が「The Untold History of the United States」と題する異色のアメリカ現代史を書いた。
 ストーンはベトナム戦争に従軍した経験がある。
 「私は『偉大なる世代』(The Greatest Generation)の人間たちとベトナムで戦った。彼らは軍曹であり、大佐であり、将軍だった。みな傲慢そのものだった。かのヘンリー・キッシンジャー(当時大統領国家安全保障担当補佐官)は、『北ベトナムは三流国家だ。われわれが奴らを打ちのめすのは時間の問題だ』と豪語していた。これが傲慢の象徴でなくてなんであろう」
 「偉大なる世代」とは、第二次大戦を戦い、ナチスや軍国主義との戦いでアメリカを勝利に導いた世代のことをさす。
 ところが、ストーンにとっての「第二次大戦」は違っていた。
 「第二次大戦は冷戦のいう赤子を産み落とし、ベトナムの戦場にアメリカ人民を送り込む『米帝国主義のマニフェスト』となった。そして今、アメリカ人民を無理やりアフガニスタンに引きずり込んでしまった」
 「施政者たちは、寓話があたかも史実であるかのごとくでっち上げ、アメリカ人民にそれを盲目的に信じ込ませてきた。まるでアメリカだけがチェス・ゲームをコントロールしてきたかのように思い込ませてきた」
 かって英政治学者、E・H・カーはこう説いた。
 「歴史とは現在と過去との対話だ。だから歴史書には、書いたものの歴史観に基づく『主観性』が入り込む。『客観性』だけで歴史を記述することなど無理だ」
 その伝でいけば、従来の歴史書を否定するストーンの現代史もまた彼の急進的な歴史観に基づく「主観性」から逃れることはできない。
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 安倍首相は従軍慰安婦に関する「河野談話」を見直すと公言してきた。これに対してオバマ政権が苛立っている。韓国との仲が悪くなれば、東アジア情勢を不安定化させるというのがその理由だ。
 歴史にとって「客観性」とはなにか、その難しさを思う。【高濱 賛】

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