もう5年程も前になるだろうか、「花の看取り」というコラムを書かせて頂いたことがある。
 毎月2回、勤務先のカルチャー・クラスで生け花クラスを担当してくださる先生が、「どんな花でも一生懸命咲こうとしているのを見ると、とても捨てる気にならないんですよ」と生徒が使い残した小さな花や、花クビだけになって花材には使えないものまできれいに集めて紙に包んで持ち帰られる話である。
 月曜日の朝一番のEメールでこの先生の訃報が届いた。
 昨年最後のクラスを、「申し訳ないけれど、キャンセルさせてください。これから救急車を呼んで病院に行きます」と自分でEメールを送ってこられたまま、とうとうお見舞に伺うチャンスも無く逝ってしまわれた。直接の死因は風邪をこじらせたための肺炎だったようである。
 死の前日に誕生日を迎えられたという話から、「お幾つでしたか」と訊ねたらちょうど90歳という返事にわが耳を疑った。
 一度も年齢など話題にならない若々しさで、数年前から白髪染めをやめて、真っ白な髪をショートカットにしておられたが、それでも80歳になられたかなという感じで、日本や他州で開かれる研修会にもこまめに出席し、「一人でも多くの方に生け花を知ってもらいたいからお役に立つことなら遠慮しないでいってくださいね」
 そんな言葉に甘えて、外部でのデモやワークショップなど、ご高齢だとは知らないままいろいろと無理をお願いし、いま後悔しきりである。お孫さんに特訓を受けたとかでコンピューターを操り、生徒への連絡もEメールですませ、生け花のテキストはワードで制作したものへ手描きのデザイン画が添えられていた。
 ワインと歌舞伎と韓流ドラマ「冬のソナタ」が大好きで、いつも話題が豊富な先生だった。
 「あなた、俳優のXXって、イケメンよ。一度DVDを見てご覧なさい。今度貸しましょうか」
 明るい先生の声が聞こえてくるような気がする。
 私の人生に華道小原流教授、アーンスト和子さんとの出会いがあったことを感謝し、ご冥福を祈りつつ…。【川口加代子】

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