「人こそ人の鏡」という格言があります。他人の言動は鏡に自分を映す鏡のようなものであるから、他人を見て自分を改めるように、という意味です。「人の振り見て我が振り直す」や、「人を以て鑑(かがみ)と為す」という言葉も、これに近いことを意味していると思います。こんなことを感じたことはないでしょうか。「にこにこして話しかけると、相手は笑みかけて答える。こちらが大声でどなれば、相手もむっとしてにらみかえす」つまり自分の表情によって、相手がそれに合わせて態度を変えてくるものだということです。
 だから、「親子、夫婦、友人、隣人、すべてが自分の鏡であって、自分の心のままに変わっていくのです。自分が正しいと思うばかりに相手を直そうとすることは、自分の顔の墨を消すために、自分の顔が映った鏡を拭く事と同じことです。自分の顔をぬぐえばよいのです。人を改めさせよう、変えようとする前に、まず自ら改め、自分が変わればよいのです。これをひろげていくと、人の世のすべては、自分の鏡であり、さらに草木も、鳥獣も、自然の動きも皆、自分の鏡であることが分かってきます。作物も、家畜も、自分の心の生活をかえれば、その通りに変わってゆく。それだけではない。私をとりまく大自然は、ただ自分の鏡というだけではなく、求めれば何事でも教えてくれる無上のわが師である」(佐藤一斎著『言志録』より要約)
 これらの言葉は、人の行動は自分を映しだす鏡だということを深く教えてくれます。「他山の石」という言葉もあります。つまり、私たちは他人のどんな言動でも、たとえそれが誤っていたり劣っていたりした場合でも、自分の知徳を磨いたり反省の材料とすることができます。自分への思いは、相手が自分にしてくれることでわかります。親の行動がその子供に強く反映されるように、自分が他の人に取る態度が、他の人が自分に取る態度になります。だから、自分が変われば他人も変わる。一年を折り返す日に、そのことを忘れてはいけないと思いました。【朝倉巨瑞】

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