物騒なタイトルの本が、今、日本で売れに売れている。『医者に殺されない47の心得』。副題—『医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法』。100万部を突破している。
 「医は仁術」という。医者はみな、山本周五郎の『赤ひげ診療譚』に出てくる主人公のように患者の病を治す徳の高い人と信じられてきた。ところが今や、過剰診療、薬漬け、延命治療・手術が蔓延している。
 それを「内部告発」したのだからみな読みたがるわけだ。
 著者は慶応義塾大学医学部放射線科講師の近藤誠医師(64)。がんの放射線治療の専門家で、乳房温存療法のパイオニアとして抗癌剤の毒性、拡大手術の危険性に警鐘を鳴らしてきた人だという。
 「医者に殺される」で、思い出したことがある。
 一昔前、バークレーの学生寮のルームメートから「AMAって何の略か知っているかい」と聞かれたことがある。黙っていると、「American Murders’ Associationのことだよ」とニヒルな表情で言い放った。正式には「American Medical Association」(アメリカ医師会)。人の命を救おうとすれば、「人の死」とも向き合わねばならない。
 著者は、「医者によく行く人ほど、早死にする」「軽い風邪で抗生物質を出す医者を信用するな」「がん検査は、やればやるほど死者を増やす」などこれまでの「常識」を覆すような心得を伝授している。さらに畳み掛けるように、「がんの早期発見は実はラッキーではない」と言い切る。
 根底には〈人間はいつかは死ぬ。治らない病もある。それなのに医者はいくらか延命させて、高い報酬を得ているだけだ〉という著者なりの信念がある。
 確かに日本人ほど薬が大好き、病院が大好きな国民はいない。超高齢化社会の影響もあって医療費は38・4兆円。国家予算の約4割にも上る(朝日新聞国際版9月26日付)。
 著者は最後に自身の「リビング・ウィル」を書いている。「いっさい延命治療をしないで下さい。もし私が苦痛を感じているようなら、モルヒネで痛みを和らげるケアだけはお受けします」
【高濱 賛】

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