子供のころ、親に怒られ1人泣いているといつも愛犬が隣に来て、まるで「大丈夫?」と心配してくれているかのように真ん丸の目で下から私の顔を見上げてきた。その純粋で愛らしい表情を見ながらふわふわの暖かい毛に触れると、不思議と不安が和らいでいったのを覚えている。
 戌年だった2006年の新年号で特集したセラピードッグの取材現場でも、当時を思い起こすような光景が繰り広げられていた。
 小東京の西3マイルの住宅街にそびえ立つ「シュライナーズ小児病院」。手術を終えまだ不安と痛みで涙を流す子どもの前に、イングリッシュセッターとラブラドールレトリバーの2匹がゆっくりと姿を現すと、涙で濡れていた子どもの頬が緩み、病室内に「キャッキャ」という笑い声が響きわたった。
 アルツハイマー病や24時間看護を必要とする高齢者が入居するリンカーンハイツの「敬老看護ホーム」でも、車いすの女性が膝の上におとなしく座るポメラニアンを満面の笑みで愛おしそうに見つめながら、優しくゆっくり、そして丁寧にポメラニアンの体を撫で続けていた。
 犬に限らず、馬やイルカ、猫やうさぎなどといった動物と触れ合うことにより、血圧やストレスレベルが下がり、不安を軽減させる「生理的効果」があるという。また、動物がいることで警戒心が薄れ、人との交流が持てる「社会性効果」もあるといわれており、アニマルセラピーは病院や高齢者・障害者施設をはじめ、刑務所や少年院、退役軍人の心のケアなどにも活用されている。
 なぜ、動物なのか。彼らにあり、人間にないその癒しの力とは何か―。
 取材を進める中で、それは「純粋さ」だということに気付いた。人間が純粋でないわけではないが、動物は本能で生き、見た目や先入観で人を判断しない。人間のように言葉を交わせないからこそ、より強く心で信頼関係を持てるからなのかもしれない。
 2014年は午年。来年の新年号では、身障者の心身を癒す「乗馬療法」を特集します。【中村良子】

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