近年、欧米や日本の生産工場が安価な労働力と市場を求めて海外へ移転し、国内生産の空洞化が目立つ。技術者や熟練労働者は職を失い失業率は上昇して若者も就職難にあえいでいる。生産拠点の移転は技術移転を伴い、発展途上国は急速に技術力を身につけ産業が発達し始めた。
 このままではいけない、日本が頭脳でも飯が食えるように知財を活性化して日本経済に活気を与えようと、知財を専門とする米国弁護士・HK氏が立ち上がり知財立国研究会が始まった。会員は趣旨に賛同した同志たち、年8回ほどの研究会で各国の知財制度や知財訴訟の実態を研究発表し活性化への戦略を練る。11月末に初めての外部発信シンポジウムを開いた。
 場所は東大の「福武ホール」。赤門を入ると正面の銀杏並木が美しく色づき、門を入って左手にもう福武ホールが見える。会場は木をふんだんに使って明るく設備が整っている。聴衆は130人超、パネルディスカッションにはちょうどよいサイズだ。キーノートスピーカーは元特許庁長官のA氏、「特許庁も裁判所も税関も、知財の権利者を守って経済を活性化するサービス業に徹すべし」が持論。明快で説得力のある話は聴衆を魅了する。
 続くパネルディスカッションは、司法界から青色発光ダイオードの特許裁判で200億円という高額判決を下した元知財高裁裁判長、産業界からは11年間も大手自動車メーカーの知財部長を務めた実務経験者、学界からは東京大学・先端科学技術研究センター教授、これに元特許庁長官が加わり多彩な顔ぶれとなった。モデレーターは世界各国で数多くの知財訴訟を担当し、国際経験豊かなHK弁護士である。奥深い知識と事例に裏打ちされ、ユーモアを交えた巧みな司会で産・官・学・司法界の4面から日本の現状と世界の動向があぶり出される。正味4時間に及ぶシンポジウムはあっという間に終わった。
 和やかな懇親会で交流が続く中、シンポジウムを企画・準備し陰で支えたボランティアの事務局委員、みんな会員であり第一線で活躍中の弁護士や弁理士たち。手作りシンポジウムだからこその満足感に包まれた。【若尾龍彦】

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