ロサンゼルスの南東に位置するパームスプリングスにサニーランズという庭園施設がある。もとはメディア王、ウォルター・アネンバーグ氏の別荘で、同氏の存命中は、エリザベス女王やレーガン大統領などの賓客が訪れた。西のキャンプ・デービッドとも言われ、西海岸での迎賓館の役割を果たした。
広大な敷地には瀟洒(しょうしゃ)な邸宅があり、周囲を美しい花畑やゴルフ場が囲んでいる。この施設は、昨年6月、オバマ大統領と習近平国家主席が米中首脳会談を行ったことで注目を浴びたので、ご記憶の人もいるだろう。アネンバーグ氏が2002年に死去した後、このサニーランズは財団化され、現在は予約すれば誰でも訪問することができる。
この施設で、「わが家へようこそ」(Pleasure of Your Company)と題する企画展が開催されている。かつて訪れた数々の賓客のうち数名を取り上げ、当時の写真やメニュー、調度品などを展示している。
フランク・シナトラの結婚式やエリザベス女王との昼食会などと並んで展示されているのが、1990年に行われた日米首脳会談時の夕食会だ。当時は、日米関係が貿易問題で緊張していた時代で、ブッシュ大統領は日本の海部総理との会談を打ち解けた雰囲気の中で行えるよう、旧知のアネンバーグ夫妻に依頼してパームスプリングスの別荘で夕食会を行なうことにしたのだった。
当時の記録によれば、バーバラ夫人は「あなた、そんな厚かましいことをアネンバーグさんに頼むなんて」と大統領をたしなめたらしい。今回の企画展では、当日のアメリカ側の「おもてなし」と和やかな夕食会の様子が紹介されている。
24年経った今でも、日本のかつての総理が地元の人たちに親しみを持って覚えてもらえることは嬉しいことだ。しかし考えてみると、総理大臣のロサンゼルス訪問は、1999年の小渕総理が最後で、以来久しく実現していない。安倍総理は学生時代、南カリフォルニア大学に留学した経験があり、当地には親しくしている知人もいるという。ぜひ、総理在任中にお越しいただき、当地の日米関係の新たな歴史の1ページを飾ってもらいたいものだ。【海部優子】