週に3回は朝、卵焼きを作る。目玉焼きにすることもあるが、大抵はチーズやマッシュルーム、ピーマンなどを入れたスクランブルだ。
 作家・阿川弘之さんの『食味風々録』に「卵料理さまざま」という随筆がある。
 阿川さんは、オムレツでも目玉焼きでも固くなりすぎはお嫌いなよう。ハワイの一流ホテルで出された朝食のオムレツは「中までしっかりと焼けた、どってと分厚い、干物みたいなプレイン・オムレツだった」とご不満だ。
 「(卵料理が)旨いのは(焼く時間が)3分、4分、せいぜい5分までで、ハードボイルドが通用するのは推理小説の世界だけだ」
 シャンソン歌手の石井好子さんの『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』に出てくるフランス人のマダムは、「最高のオムレツって、外側はこげ目のつかない程度に焼けていて、中はやわらかく、まだ湯気の立ってるオムレツよ」とのたまう。
 「50の手習い」で始めた料理だから料理について偉そうなことは言えないが、この種の料理にまつわる話には関心がある。料理は文化だからである。
 近くに住むアメリカ人のご婦人から「今、日本人が食べている家庭料理ってどんなもの?」と聞かれた。返答に困っていた矢先、旧友からそれにぴったりの本が送られてきた。
 タイトルは『Cook Japanese with Tamako』。日本在住の坂元珠子さん(ICU卒)という料理研究家が英字紙に6年間連載していた料理レシピ50数点をまとめたものだ。
 料理の本だが、一つ一つのレシピに関する由来や家族との思い出が書かれている。SushiやFusionには飽きてきたアメリカ人の「日本食の食通」にはお勧めしたい一冊だ。
 坂元さんは、前述の、卵焼きは固いほうがいいか、やわらかいほうがいいか、どちらにも軍配を上げていない。
 が、カレーライスの上にほうれん草と目玉焼きを載せた「Sunny-side Up Curry」などは自分で作って、食べてみたい一品だ。
 本の冒頭には、「I planted, Apollos watered, but God caused the growth」(1 Corinthians 3:6)の聖句が掲げてある。家族の絆を大切にする敬虔なクリスチャンとお見受けした。【高濱 賛】

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1 Comment

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  1. 卵にまつわるお話大変興味深く拝読しました。 確かに私も卵は柔らかく半熟程度の料理が一番おいしく食べられますね、特に親子どんぶりの卵にハードボイルはいただけません。ところで たまごって
    卵が良いのか 玉子が正しひのかわかりませんが。食品売り場でtまごを陳列してあるサインには
    ほとんど 玉子になってますよね。  卵焼はいいとしても 玉子焼きは なんとなく イメージが
    変わってしまひます。 食べるときは そんなこ田ァーだふでもいいから おいしく食べられれば
    いいのです。 もえ もえ おいシーってっとこです。

    木村卓爾