犬に襲われた小さな男の子を猫が助ける映像。ご覧になった方もおられるだろう。インターネットやテレビで世界中に流れたエキサイティングな映像だ。
 三輪車で遊んでいた男の子をやにわに犬が襲い、引きずっていこうとしていた瞬間、鞍馬天狗よろしく現れた猫が犬に襲い掛かって撃退する。かっこいい猫君だ。
 だが、猫って本当に犬より強いのだろうか。動物飼育専門家の西川文二さんによると、犬と猫が一対一で戦ったら多分、猫の方が勝つだろうという。その理由は、犬の武器はその鋭い犬歯。一方、猫のほうは鋭い爪。犬が噛みつこうとする瞬間、その爪で防戦するばかりか、その爪で引っかく。犬の目でも捉えれば犬はひとたまりもない。もっとも動物というものは戦う前に怪我をするリスクを避ける。とくに猫は犬よりも走るのが速いし、忍者のごとく木によじ登れる。一対一で対峙した場合、猫はまず「逃げるが勝ち」を決め込む。だとすると、この映像の猫は例外的な行動をとったのか。「おそらく子育て中で、男の子が襲われるのを見て、わが子を守る母性愛からの行動だったのかもしれない」(西川さん)。
 それにしても悪役となったワン公。人間の子供を食べるつもりだったのか。アメリカ人の獣医Aと食事をした折、そのことが話題になった。Aさんは、「たぶん食べやしなかったよ」と言い切った。
 元々犬も猫もご先祖さまは食べるために獲物を捕まえていた。そのための脳の回路や遺伝子は、三食昼寝つきの今も残っている。つまり狩猟本能の痕跡は脈々と伝わり続けている—。そう説明したAさんはさらにこう付け加えた。
 「犬はボールを投げれば追いかけるし、散歩の最中にリスを見れば、絶対捕まえられないのが分かっていても追いかける。この犬も同じ。食欲を満たそうとして襲ったのではなく、ちょうどボールかなにかを追いかけるような感覚で子供を襲ったのだろう」
 それ以来、朝晩散歩させる愛犬二匹を注意深く観察している。が、暇さえあれば寝ている「怠け者兄弟」にはとても狩猟本能があるとは思えない。【高濱 賛】

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