「光ちゃん、言葉はほとんど話さないけれど、ホワイトが白、レッドが赤と、色はきちんと理解していますよ」
デイケアの担当者からそう言われたのは、UCLAの専門医から「知的障害のある自閉症」と診断された3歳のころだった。当時、自閉症はまだ広く理解されておらず、知識も情報も公的支援もない。フォングさん夫妻は障害と向き合い、手探りでわが子の幸せを追求した。意思疎通が上手くできず、至るところを走り回っていた日々から20年。光さんの個展が開かれることになるとは、当時、夢にも思っていなかった。
個性伸ばす教育
赤、青、黄、緑、茶色、ピンク…。色とりどりのマーカーが並んだ光さんのアトリエは、家族が集まるキッチンの横にある。この日、鼻歌を歌いながら描いていたのは、今年4月に日本で見た劇団四季の「リトル・マーメイド」。鉛筆で下書きした人魚の絵に、マーカーで丁寧に色を塗っていく。その色使いやタッチからは、光さんの個性が溢れ出ている。
フォングさん夫妻はともにイラストレーターとあり、光さんはアートに囲まれ育った。物心ついたころから絵を描いていたが、小学校低学年のころから自分の目で見て、体験したものを率先して描くようになった。
玩具メーカー「マテル」でコレクター用人形などを中心にした顔のデザインを担当する母親の晶子さんから見ても、光さんの作品は魅力的だ。「絵自体はむちゃくちゃなことが多いけれど、色使いがいい。私たちにはない光だけの世界。作品を見ていると、彼女の世界に引き込まれていく」
言葉で気持ちを表現するのが苦手な光さんにとって、絵はコミュニケーションのひとつ。絵を描き始めてから、光さんは外の世界とのつながりを持てるようになった。また、「絵」というフィルターを通し自身の感情を表現することで、心も落ち着いた。
障害を受け入れる
診断以来、光さんが社会の一員として自立した生活を送れるよう、数々のセラピーを受けさせてきた。「これ以上上達しません」と断言する専門家もいた中、「アートも子育ても愛情を込め丁寧に手を入れれば、その分よりよいものになる」と諦めなかった。
「健常者と比較したらその差は歴然。でも、数年前の光と比べたら、確実に成長している。光には光の幸せがある」。今でこそ胸を張って言えるが、診断当初は自閉症でないと思い込もうとしていた。「でも、それは親のエゴで、受け入れないことで一番辛い思いをするのは光だと気付いたんです」
光さんは今、自分で最低限の身の回りのことができるようになった。フォングさん夫妻がありのままの光さんを受け入れたことで、光さんは伸び伸びと成長できた。
社会に恩返しを
光さんの個性的な作品は、多くの人を魅了してきた。そこには、光さんの才能にいち早く気付き、個性を伸ばす教育をしてくれた素晴らしい教師との出会いがある。「光にとって個展開催は、自立へ向けた大きな一歩。税金を支払い、社会の1人として誇りを持って生き、恩師また社会へ恩返しができる貴重な機会」
個展は、来年6月から加州立大学ロサンゼルス校のギャラリー「ラックマン・ファインアーツ・コンプレックス」(5151 State University Dr.)で1カ月間催され、約20点展示される。光さんの生い立ちや作品に取り込む姿を撮影したフィルムも上映される。
オープニングに合わせ、同校マーチン・ルーサー・キング・ホール内の約10メートルの壁には、光さんの半生を描いた新作も展示される。
「知的障害や自閉症があっても、こんなにハッピーな絵を描けるということを多くの人に知ってもらいたい。光の作品を見て、障害者に対する社会の認識がさらに深まり、また、障害を持って生きる人たちも外見からは想像もできないほど豊かな世界を内に持ち、将来に向けて無限の可能性を秘めていることを知ってもらいたい」
光さんは今日も、キッチン横のアトリエで新作に励んでいる。【中村良子、写真も】

Hello Naomi,
Thank you for your comment. I’ve heard great things about you from Akiko. Yes, the story will be published in English as well. I will let you know as soon as we know the exact date. Thank you.
Will the article on Hikaru Fong be translated into English and published in the Rafu?
If so, when?
Thank you, Naomi Nagahama