40年前に読んだミステリアスな3章構成の寓話、リチャード・バックの「かもめのジョナサン」(「Jonathan Livingston Seagull」)の完成版が10月に出る。
英語版に先駆けて、作家の五木寛之さんが「創訳」(創作翻訳)した日本語版が発売されたというので早速取り寄せた。
オリジナルは、「固定観念やマンネリ化した思考でがんじがらめになった米社会に反発したヒッピー世代への応援歌だ」と評されていた。
物語の主人公はジョナサンという若いIconoclastic(因襲打破主義の)かもめだ。仲間たちと群れをなし、「ただ生きるために生きる」生活に耐えられなくなり、「より高く、より速く飛ぶこと」に歓びを見いだそうとする。前半は、そのかもめが、訓練に訓練を重ね、飛ぶことにより肉体的にも精神的にも完全な自由を勝ち取るという筋書きだ。
ジョナサンがこの世を去った後、直弟子たちはそのジョナサンを神格化する。硬直した儀式や儀礼ばかり重んじるようになる。が、そのあとを継いだ第三世代は「ジョナサン教」に反逆、第二世代を追放してしまう。ここでオリジナルは終わっている。
付け加えられた第4章は、
〈疎外された第二世代のかもめが死のうとして急降下飛行した瞬間、自分より速く飛ぶかもめに追い越される。なんと、それはあのジョナサンだった〉
と続く。かもめは、時空を超えたジョナサンか、あるいは幻影か―。
著者がオリジナルを書いたのは33歳の時。書き上げていた第4章は「蛇足だ」と割愛していた。
ところが2年前、76歳の時、自らが操縦する小型機が墜落、九死に一生を得た。その体験が「追加」を決めるきっかけとなった。死線を彷徨(さまよ)う著者は、44年前、頭でしか想像出来なかった「死後の世界」をこの時、実際に見たのか。
物語の結末はよりミステリアスに、読むものを宗教的な、無限の世界へと誘う。【高濱 賛】