先日、レーガン大統領記念図書館に出かけた。常設展示の一角でホワイトハウスでの公式晩餐会のメニューが掲示されていたので、鈴木善幸総理と中曽根総理のお二人がそれぞれ国賓として訪米した際の晩餐会メニューを検索してみた。
 メニュー選びは、賓客の好みやその国の食文化に合わせて、事前に綿密な検討が施されるのだそうだが、両総理のための晩餐会ではスモーク・サーモンのオードブルやステーキ、サラダなどのメニューで、それほど驚くような内容ではなかった。
 では日本での最高レベルでの「おもてなし料理」はどうだろうか。手元に、13年前に訪日されたノルウェー国王ご夫妻をお迎えしての宮中晩餐会メニューが残っている。「燕の巣入りのコンソメ、伊勢えびのテリーヌ、若鶏と夏野菜の冷製、羊腿肉の蒸焼き、サラダ、アイスクリーム、メロンとストロベリー」のコース料理だ。
 実は、宮中晩餐会の通訳には一種の役得があった。お料理に関する質問が賓客から出た時のために、お客さまに供される料理を事前に試食させていただくのだ。
 スープはいつもコンソメで、燕の巣やジュンサイが入っていて、繊細な味だった。肉料理は羊肉が多かったように思う。アイスクリームは富士山型で、手作りらしくクリーミーでしかもサクサク感があった。最後にメロンが出されることが多いが、フォークを果肉に入れただけで果汁があふれ出るほどジューシーだった。
 通訳業務を間近に控えてのタイミングなので、楽しむどころではなかったが。今から考えると、もっとじっくり味わっておけばよかったと思う。
 外国からの賓客には日本食でもてなすほうが良いのではないかとの考え方もあるが、フランス料理でも、ジュンサイなどの和野菜や金箔を取り入れたり、富士山をかたどったアイスクリームを供したりして、日本らしさが演出されていた。
 旅行中の美味しいお料理は、場を和ませるだけでなく、楽しい思い出として末永く人々の記憶に残るものだ。宮中でのおもてなしを受けられた各国の賓客たちは、今もあの絶品のコンソメスープや富士山のアイスクリームの味を覚えてくれているだろうか。食欲の秋を迎えて、食を通じての外交にしばし思いを馳せた。【海部優子】

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