ミズーリ州ファーガソンの黒人青年射殺事件を受け、全米中で人種差別に対する抗議デモが行われた。怒りを抑えきれず暴徒と化した人々が各地で放火や略奪行為を繰り返す中、ある1枚の写真が全米中の人々の心を打った。
写真は先月25日にオレゴン州ポートランドで行われたデモでのひとコマ。涙を流す黒人少年を白人警官が抱きしめている1枚だ。黒人少年の名はデバンテ・ハート君(12)。彼は「ハグ無料」と書いた看板を腕に抱え警察隊のバリケードの前に立っていた。怒り狂う大人たちの中で、小さな体でプラカードを持ち、目には大粒の涙が光っていた。
デモの鎮静に当たっていた白人警察ブレット・バーナムさんは悲しみに沈んだデバンテ君の姿に気づき、歩み寄った。涙のわけを聞くと、デバンテ君は最初答えをためらいながらも優しい警官に心を開き、今回の事件に対する恐怖を打ち明けた。
「自分も大人になったら、黒人であるがゆえに疑われたり命を狙われたりするのかもしれない」。まだ幼い彼に差別への恐怖をぬぐい去るのは容易ではない。警官はデバンテ君の話に一心に耳を傾け、その後ハグさせてもらえるか尋ねた。2人はハグし、警官はしばらく大きな腕でデバンテ君を優しく包み込んでいた。
実はデバンテ君は生みの親から虐待を受けて育った。育児放棄にもあっていたため言葉もほとんど知らなかった。5歳の時に今の両親に養子として迎えられ初めて愛情を知った。それでも心に刻まれた傷はなかなか癒えず障害やトラウマを抱えて生きている。
そんな彼だからこそ、デモへの参加は黒人への差別に対する抗議のためではなく、ハグを通して人として一番大切な「愛と優しさ」を広めるためだった。怒りや憎しみは何も解決してくれないことを彼は伝えたかったのかもしれない。
今ファーガソンの街では放火や店舗の破壊など暴力行為はなく、黒人と白人の人種間の結束を訴える動きが見られるという。差別や暴力、衝突が繰り広げられている世の中で、ハグをする2人の姿は今回の事件でできた人種間の溝を埋めてくれたように思う。【吉田純子】