暮れから正月にかけて一冊のミステリー小説(全6巻)にどっぷり浸かってしまった。ミステリーの醍醐味は、作者が仕掛けたナゾをページをめくるごとに解き明かしながら、最後にはどんでん返しがあるところだ。
ミステリーのタイトルは、「ソロモンの偽証」。作者は宮部みゆき。ソロモンとは、ご存知のように旧約聖書『サムエル記』『列王記』に出てくる古代イスラエル王国の王。神から英知を授かった偉大な君主。その最高権力者の「偽証」という奇抜なタイトル。見ただけでなんとなく、ぞくぞくしてくる。すでに映画化が決定しているという。
小説の時代設定は古代ではなく、現代ニッポン。1990年の東京・下町の区立中学校が舞台だ。読み進んでいくうちに「ソロモン」とは、校長であり、警察であり、そして当事者の中学生やその父兄、つまり現代に生きるわれわれであることがわかってくる。
物語は、その中学校でクリスマス・イブに起こった男子中学生の転落死から始まる。事故死か、自殺か、それとも殺人か。学校当局も警察も即座に自殺と断定。ところがその中学生が校舎の屋上から突き落とされるのを見たという目撃者から怪文書が送られてくる。しかも殺人犯を名指しにしている。マスコミが騒ぎ出す。噂と伝聞が駆け巡り、学校はパニック状態に陥る。
死んだ少年の級友ら「七人のサムライ」が真相究明に立ち上がる。アメリカの大陪審さながらの模擬大陪審が出現する。事件解明のプロセスの中で焙り出されていく嫉妬、苛め、謗り、登校拒否、自殺未遂…。教育現場が抱える現実がいやが上にも浮き彫りにされる。そして最後には中学生の大陪審は「真実」を見つけ出し、「正義」を貫き通す。
米中西部で昨夏、白人警官による黒人少年射殺事件が起きた。地元大陪審は「警官無罪」と裁定した。日本の中学生が手を上げて質問している。
「丸腰の少年をすぐ射殺するのはやりすぎです。これだけのことをやった警官を大陪審は起訴しないですか」(川添敦史=12歳、朝日新聞「声」欄、1月5日付)
古今東西、人間って、年を重ねるとともに「正義感」が鈍化していくのかもしれない。【高濱 賛】