昨年の暮れ近く、突然の電話は親友のKさんが出張先で急逝した報せだった。Kさんは有能な米国弁護士で、特許など知財を主とした数多くの裁判に日本企業を弁護して腕をふるった。日本の高度成長に伴い貿易摩擦が顕著になると各種の知財訴訟が頻発し、日米の裁判制度の違いに戸惑う日本企業は相次いで高額な賠償金を支払わされた。彼はそんな企業の経営者や法務関係者に日米の裁判制度の違いを解説し、戦略を立てて裁判に備えた。そのために歴史をたどり、特許制度の起源や法の発達、欧米と日本との法哲学の相違をつき詰めて探求し分析する。彼の正義感は単に顧客の弁護に留まらず、もっと多くの日本の人々にそれを伝えようと多くの本を著した。
 彼の思考は常に物事の本質に迫る。豊富な判例や歴史の研究、社会思想の変遷や世界の産業の盛衰を探求し、そこから導き出された論文や著作、講演は論旨の明快さと内容の深さ、なによりもわかりやすい語り口が人々を魅了した。第6版を重ねた「米国特許法逐条解説」や「ビジネスモデル特許」などは企業の法務関係者の手引書となり、「天才エジソンの秘密」や「ステイング・パワー」は若者たちへの啓蒙書として愛されている。
 彼は人間の知恵は無限で、創造力はあらゆることに興味を持つことから生まれるという。労働、思考・議論、運動と、心身ともにバランスの取れた古代ギリシャ人の生活は彼の理想だった。「未知に遭遇し驚くと感動する。感動が続けば情熱に変わる。情熱を持つと人は120パーセントの力を発揮する」『一人ブレーンストーミング』は物事を多角的に考えるよき手段だと、彼の残した名言が数多く記憶に残っている。
 分け隔てなく誰とでも交わり、若者を育てることに限りない喜びと情熱を持っていたKさんは、日本の法科大学院で教べんをとり学生たちをこよなく愛した。9年間の教授生活は本当に楽しかったようだ。また、日本の知財市場を活性化しようと立上げた「知財立国研究会」はようやく軌道に乗り始めたところだった。国を思い社会の発展を望む、そんなKさんの急逝は日本の損失だと惜しむ人が多い。誠に残念だ。【若尾龍彦】

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