「ひきこもり」をテーマにした、インディペンデント短編映画を制作しているアメリカ人監督を取材した。日本出身の妻に出会うまでその存在をまったく知らなかったという彼は、自身の生い立ちから、「自分を理解してくれる人がいない、居場所がない、と感じた時、社会と隔絶したくなる気持ちはよく分かる」と、アメリカ人にもこの日本の社会現象を知ってもらいたいと制作を始めた。
同氏はドイツの米軍基地内で生まれ、米国内の基地を転々とした後、ボルティモアで育った。当時基地内の学校は白人ばかりでクラスに黒人は彼一人という状況だったが、ボルティモアではそれが一転。同氏は当地のタフなストリート精神を持ち合わせておらず、「しゃべり方、立ち居振る舞い、お前はすべてが白人だ」といじめられ、孤立した。だが、ひきこもりにはならなかった。いや、なれなかったと言う方が正しいかもしれない。理由は、「規則に厳しかった軍人の両親が、彼が室内にこもることを断固認めなかったから」という。
日本の内閣府によると、ひきこもりの定義は「統合失調症やうつなど病気を発症した人を除き、6カ月以上自宅にこもり、会話をほとんどせず、自分の趣味に関する用事の時だけ外出する人」のことで、2012年の調査では、15歳から39歳のひきこもりは約70万人いるとされる。
誰にでも孤立を感じる経験はあるが、ひきこもりという極端な状況になるかは、その人の性格や家庭環境に加え、やはり社会や文化の影響が強い。特に日本の「子どものために何でもやってあげる親」「恥を恐れ外部に支援を求めない風潮」「協調性が求められる社会」などが状況を悪化させていると言われる。
映画では、アメリカに移住してきた日本人一家を舞台に、主人公の息子がアメリカの文化や生活になじめずひきこもりになっていく様子、そしてそれを無意識に助長してしまう祖母の「優しさ」など、日本独特の家族動態が描かれた内容になっている。
映画の主人公同様、移住後に孤立感を深めた経験など、共感できる人は多いはず。映画を通じ、あらためて社会や家族のあり方、またカウンセリングの必要性などについて考える機会になればと思う。【中村良子】