映画館に行くと、他の観客が帰り始めても必ずエンドロールの最後まで見ることにしている。それほど映画通というわけではないし、映画界に知人が多いからでもない。エンドロールに記載されている日系人や日本人名を見つけるのが楽しいからだ。残念ながら日系の俳優名を目にすることは稀だし、CGグラフィック等の技術系スタッフを除いては、スタッフの中にも日本人らしき名前を目にすることは多くない。
 ところで、日本をテーマにしたハリウッド映画などでは、隠れた協力者たちがわが日系コミュニティーに存在していることをご存知だろうか。たとえば、アカデミー賞にもノミネートされた「硫黄島からの手紙」。第二次世界大戦中、硫黄島で戦う栗林中将が、日本にいる妻から届いた手紙を読むシーンがあった。栗林役の渡辺謙さんが、ここはぜひ、当時の日本女性らしい毛筆の手紙を用意したいとこだわった。快くその手紙を書いてくださったのは、米国書道研究会会長の生田博子さんだ。そのシーンはわずか数十秒だったと思うが、明日銃弾に倒れるかもしれない栗林が万感の思いを込めて妻からの手紙を読む印象的な場面となった。
 また、「メモワール・オブ・ゲイシャ(さゆり)」は日米で話題作となったが、この映画の興行終了後、日本の着物の美しさをハリウッド関係者に正しく理解してほしいと私財をなげうって着物ショーを開催したのは、長年ハリウッドのメークアップ・アーティストとして活躍したカオリ・ナラ・ターナーさんだ。
 さらに、これはハリウッド映画ではないが、数年前に日本で放送された「99年の愛」という日系人家族をテーマにしたテレビ・ドラマでは、出来るだけ真実味のある日系人の生活を描きたいという監督の願いで、ストロベリー・キングとして知られる伊藤富雄さんにお願いして撮影クルーの見学をご自宅に受け入れていただいた。このドラマに出てくる現代の日系人家庭の家の雰囲気は、伊藤家を参考にしたものだ。
 こうした当地の撮影協力は他にも数多くある。しかも皆さんボランティアだ。このような協力があるからこそ、映画やドラマに「日本らしさ」が投影される。エンドロールのクレジットに記載されない、隠れた名脇役や名演出家に拍手したい。【海部優子】

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