学生時代の友人夫妻に待望の第一子が誕生した。結婚して7年、なかなか妊娠できず、2年前から不妊治療を始めていた。
 夫婦ともに健康状態に問題はなかったが、30代後半の妻の卵子は老化し、40代前半の夫の精子は数が少なく運動性に乏しく、体外受精後も受精卵が育たなかったり、子宮に戻しても流産してしまったりと、出産までの道のりは決して、平たんではなかったという。
 治療費もかさみ、「これがだめなら養子縁組にしよう」と決めた最後の体外受精で元気に誕生したのが、第一子だ。夫婦で協力し、小さなわが子を大事に育てる友人夫妻を見ていると、ニュースで見聞きする心痛む事件が頭をよぎる。
 栃木県で12日、30代の女が自宅で出産後、新生児の遺体を墓地に埋める。福井県で先月、10代の孫が自宅で出産した新生児を祖母が殺害する―。どんな事情であれ、命をあやめるのだけは許しがたい。
 ロサンゼルス郡には、生後3日以内で、虐待の兆候がなければ、匿名で新生児を引き取ってくれる「Safe Surrender」というプログラムがある。かつて、海や大型ゴミ収集箱などに新生児が遺棄される事件が多発し、胸を痛めたドン・クナベ郡参事が14年前に立ち上げたプログラムだ。
 以来、ロサンゼルス郡内で130人の新生児が病院や消防署に持ち込まれ、郡児童家庭サービス局を通じて養子縁組されている。
 日本でも、07年に熊本市の慈恵病院が「こうのとりのゆりかご」(通称、赤ちゃんポスト)を設置。以来、100人以上が預けられたという。しかし、日本には恥の文化があり、外に助けを求められない人、また熊本県まで行けない人も多くいる。そのためか、新生児遺棄は後を絶たない。赤ちゃんポスト増設の必要性が議論される中、「捨て子を助長する」という反対意見もあり、なかなか前に進まないのが現状だ。
 命の教育にあらためて力を入れることは言うまでもないが、不妊のため望んでも子に恵まれないカップルが増える中、まずは尊い命を救うことを第一に考えるべきと思う。【中村良子】

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