「知的好奇心旺盛な40代以上に向けた趣味と文化のクオリティー誌」と銘打った月刊誌「サライ」。その3月号に70年前に刊行された『新寶島』と『ジャングル大帝』の特集が載っている。復刻版が別冊付録でついている。
 小学生の頃、宿題はほったらかしにしてむさぼり読んだ手塚治虫の冒険漫画だ。
 前者は、宝島の地図を頼りに冒険の海に飛び出すピート少年と「船長さん」、密林の王者バロンが繰り広げるアクションもの。手塚さん自身、「スチーブンソンの『宝島』とロビンソン・クルーソーとターザンをごちゃまぜにしたようなもの」と話している。
 後者は、『漫画少年』に連載された白いライオンの親子三代にわたる長編ドラマだ。その後、テレビアニメや劇場映画にもなっている。
 アニメは米国でも放映されている。ディズニーの『ライオン・キング』(94年公開)は『ジャングル大帝』の影響を強く受けたとされている。
 70年ぶりに読み返して、子供心に泣いた一コマに再び遭遇した。
 ジャングルの帝王レオが吹雪の山頂で「ヒゲオヤジ」を襲い、わざと殺されるのだ。自分の肉と毛皮で寒さと飢えから「ヒゲオヤジ」を救ったのだ。「漫画史に残る名場面」(竹内オサム同志社大学社会学部教授)とまで絶賛する人もいる。
 最近、似たシーンをハリウッド映画で見た。
 厳寒の中で生き延びる男を描いたデカプリオ主演の「レヴェナント:蘇りしもの」だ。崖から落ちて九死に一生をえた主人公が死んでしまった愛馬の肉を食らい、腹を割砕いて内臓を取り出し、馬の体内で寒さをしのぐ場面だ。米西部開拓時代に実在した罠猟師の実話だ。
 動物が自らの命を犠牲にしてでも人間を救う―。ゲームもテレビもない時代、手塚さんは「僕ら」に「動物と人間の愛情の交感」をビジュアルに教えてくれた「教育者」だった。【高濱 賛】

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