リオのオリンピックも終盤を迎え、メダル量産の日本が盛り上がっています。この日を目指して日々研さんを重ねてきた選手たちが、負けては悔し涙を流し、勝っては派手なガッツポーズで雄叫びをあげる、それは毎日の血のにじむような鍛錬の成果なので無理もありません。しかし、元々オリンピックは戦いが絶えなかったギリシャで、せめてこの期間だけは戦いを休止して純粋にスポーツで戦い、その肉体と技を競おう、そして勝者にはオリーブの冠と観衆の称賛を送ろうと申し合わせたのが原点です。正々堂々と自分の鍛えた肉体のみで戦うのが真のスポーツマンシップ、勝負がつけば敗者は素直に勝者をたたえ、勝者は敗者の健闘に敬意を払うのです。古今そのようなスポーツマンシップはどの国にもあり、西洋では騎士道になり日本では武士道になって人々の憧れでした。
テレビ番組で、抜群の打撃を誇った往年のプロ野球の名選手・張本勲氏の言葉が耳に残りました。「勝ってガッツポーズをするのはよい、しかしコブシは肩までだよなあ。これ見よがしに派手に頭上に上げるのはどうかねえ。やはりスポーツは礼だ。対戦した相手に対する敬意がないとねえ」と。全く同感である。対戦中は、相手を打ち負かそうという気持ちが募り、勝った瞬間に爆発して派手なガッツポーズとなります。しかし素晴らしい相手があってこそその勝負は輝かしく日頃の鍛錬の目標になるのです。勝った瞬間のガッツポーズの後は、直ちに敗者や相手コーチと握手を交わし、審判や運営スタッフに感謝を示す選手は見ていて気持ちがいい。本当に人気のある名選手はそのような場面とともに長く人々の記憶に刻まれます。
近年、オリンピックに膨大な国家予算が使われ、スポーツの祭典から国威を発揚する場へと変わりました。莫大な経費のために商業主義が取り入れられ、選手には称賛とともにさまざまな形での収入が入るようになりました。勝つためにドーピングがはびこり、栄えある歴史が傷つきました。4年後の東京では、選手も観客も克己と謙譲を兼ね備えたサムライのオリンピックを目指してもらいたいものです。【若尾龍彦】