あまりの美しさ、神々しさに、野ウサギたちも飛び跳ねて喜ぶという十五夜の月。
 童謡の世界だけではなく、日本の風習として十五夜、中秋の名月、芋名月などと称して旧暦の8月15日にお月見を楽しむ。太陽暦では、9月中旬から10月初めになり、日にちは毎年変わる。今年は9月15日。また、月の満ち欠けは約29・5日のサイクルなので、満月は通常、十五夜より1〜2日ずれ込み、今年は翌16日。
 十五夜には魔除けの力があるとされるススキを飾り、月見団子や収穫されたばかりの里芋、栗、柿などを器に盛り、御神酒を供えて家族や友人らと酒を酌み交わし、料理を楽しみつつ秋の夜長を過ごす。
 そして子どもたちにとっては、この日ばかりは近隣の縁先に飾ってある月見団子や月餅などの菓子類をこっそり盗んで食べてもよいとされている。家人たちは盗みに気づいても見ない素振りをする「お月見泥棒」という風習もなつかしい。核家族化が進んだ最近では、今や昔の風習になってしまったのかもしれない。
 アメリカで、ふざけ半分にこうした「お月見泥棒」を真似ようものなら、射殺されないまでも警察沙汰になるのは必至。お月見の風流とは無縁な社会なのだろう。それでも日本で慣れ親しんだ月を愛でる風習を受け継いで、観月会や月見茶会を開く粋な人たちもいるにはいる。
 確かに、花鳥風月、雪月花などの言葉が示すように、月は日本の文化に深く根をおろしているのだ。俳句に、名月や 池をめぐりて 夜もすがら(芭蕉)や、名月を 取ってくれろと 泣く子かな(一茶)などがあり、短歌に「月々に 月見る月は多けれど 月見る月はこの月の月」(詠み人知らず)というのもある。ことば遊びのようにも感じられるが、「月」を8回も用いて中秋の名月を見事に詠っていて、感服。
 ところで、ご承知の通り、月にはMoon(空の月)とMonth(暦の月)の2つの意味がある。そこで、短歌にある8つの月のうち、どれが「空の月」で、どれが「暦の月」になるのだろうか? 人によって2通りの解釈ができそうですが…。
 黄卵をポンと落とした月見ソバでも食べながら、ウサギの気持ちになって考えてみてはいかが?【石原 嵩】

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