先日世界のあちこちを旅行する友人と会う機会があった。彼女は厳しい修業で有名な日本の料理学校出身で、たたき上げのプロの料理人だ。だが、気さくな人柄で世界の旅先で気軽に友人を作り、その人の家に泊めてもらうという特技を持つ。宿泊先の冷蔵庫の中の残り物で素早くおいしい料理を作り、台所を磨き上げ、借りた部屋を掃除し、ベビーシッターもペットシッターも大丈夫よと笑う。長年加州に住んでいたが、日本の家を継ぐために帰国した。
 世界中のどの国に住むのが一番良いか問うてみた。しばらく考えて、食に重きを置くならやはり日本だそうだ。理由は、日本は何でもおいしいからだと。例えばフランスやイタリアでは、その国の料理はおいしいが、そこでラーメンも寿司もおいしいか、というとそうではなくなると。反対に日本はどこの国の料理でも見事にマスターして、なんでもおいしいのだそうだ。同胞のひいき目もあるが、うなずけるものもある。
 食を度外視したらどの国がいいかという問いには、やっぱり暖かい国がいいという。寒い国は野菜も果物も成長せず、少しの収穫を冬用に蓄える。そうしなければ冬の食糧はない。勢い人々は真面目に見える。一方南国では、何もしなくても太陽と雨の恵みで野菜は自然に育ち、果物は木から落ちる。だから人々は陽気で幸せそうだとか。一人の旅人の感想に過ぎないが、一理ある。
 シカゴから移ってきた知人は、カリフォルニアは1年が365日あるという。どういう意味かと聞くと、シカゴは雪に埋もれた極寒の冬は外出することも出来ず、1年の2割は家に閉じ込もる。だから1年の実動日は365日よりはるかに少ないと。そういえば、私が住んだラスベガスやパームスプリングスの夏は灼熱の日中は外出できず、テニスやゴルフは早朝のみ、1日は半分しか使えなかった。
 穏やかな冬の日差しを受け、半そでシャツと半ズボンで忙しく行き交う加州の人々。1年が365日ある恵まれた地。暮れ行く年を反省し、新年も、365日フルに活動できる幸運を無駄にせずに生きたいと思う年の瀬である。【萩野千鶴子】

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