穴あきジーンズを半世紀ぶりに履いている。ここ数年ぼろけたジーンズが流行している。触ってみると履き古したジーンズのようにソフトで履き心地もよかった。
 子供の頃は母親が繕ってくれたジーンズをよく履いていた。公立の小学校に通ったが中学・高校は今ではセレブ御用達の私立校だった。通い始めて少ししてクラスメートを家に招き、いつもの継ぎ当てジーンズで駅まで迎えに行った。普段は背広の制服を着ていて私服で会うのは初めてだった。「うわっ、すげー格好してるな!」と開口一番言われガーンときて、この一瞬から「服」への関心が芽生えた。
 80年代初め、川久保玲がデザインした穴のあいた黒いセーターを原宿で見た。穴のあいた服をファッションにしたパイオニアの1人だ。山本耀司と黒ずくめファッションをはやらせ、パリコレに衝撃を走らせた。今年5月からNYメトロポリタン美術館で彼女の作品展が開催されている。同美術館が存命中のデザイナーを単独で取り上げるのはサンローランに続き2人め。快挙だ。
 川久保玲デザインのコムデギャルソンの服を着ていると素材や仕立ての良さに加えアート的要素の濃さも感じる。デザイン、カットがアートしているのだが「着やすくない」服も多い。川久保氏によれば「創る側は多大な努力をしてデザインしているので、着る側もそれなりの努力をして着ていただければ…」。確かに一理ありだが、服作りの理念が多勢とは違う。
 平面と服の違いはあるがデザインを手がける人間として共鳴する部分は多い。斬新なデザインを生み出すには既成概念を壊す、覆す逆の発想が必要になる。1920年代のダダイズムやシュールレアリスム、70年代のパンクと共通する精神だ。
 彼女のデザインはバストとヒップが張り出し、ウェストがぎゅっと締まったヨーロピアン・エレガンスの対極からの発想だ。小さな枕のような詰め物袋が複数縫い付けられ、着る人の体形/シルエットを変えてしまう「こぶドレス」、2着のドレスが縫い合わされ、1人では着られないドレスなど川久保玲の華麗な挑戦は続く。【清水一路】

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