8月、NHKスペシャル『本土空襲・全記録』と『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』を見た。
これまで極秘だった膨大な量のGHQやCIAの機密文書とフィルムに基づいてNHKが制作した超一級ドキュメンタリーだ。
米軍は当初、府中の中島飛行機工場を狙った。だが1万メートル上空からの爆撃では命中率は7%。ルメイ将軍は東京全域への無差別空爆に切り替えた。B29爆撃機は焼夷弾の雨を降らせる。死者は18万人に上った。東京は壊滅した。
本土空襲、原爆投下、そして無条件降伏。「戦後ゼロ年」が幕を開ける。
日本軍は本土決戦に備えて隠匿していた金塊を敗戦と同時に東京湾に沈めていた。駐留軍が金塊を探り当て、引き揚げるシーンが出てくる。数兆円の価値がある。国民が餓死状態にある中で「日本軍は敗戦後も日本国民に対する犯罪行為をぬけぬけとやっていた」(ジョン・ダワーMIT名誉教授)。
カメラは、一般市民が繰り広げる「コメよこせ」デモや占領軍専用の「売春施設」、廃墟と化した町とは別世界の占領軍軍属の優雅な暮らし、ヤクザが取り仕切る「ヤミ市」をとらえている。悪徳旧軍属やパージから逃れた政治家たちが「ブラックホール」で蠢(うごめ)く「戦後ゼロ年」の世界がこれでもか、これでもか、と映し出される。
確かに、私はあの「戦後ゼロ年」にいた。東京・四谷のバラック小屋に親戚を訪ねた時、焼け野原で見たオレンジ色の夕陽。「買い出し列車」に私を窓から押し込んだ母親の真剣なまなざし。今もはっきりと覚えている。
映像を私と同年配の元米外交官に転送した。「東京が壊滅したなんて、今の若者は信じると思うかい」とツィートしてきた。ワシントン特派員時代からの無二の親友だ。【高濱 賛】