「アナログ」(Analog)。連続した量(例えば時間)を他の連続した量で表示することを意味する。
 アナログと対比されるのが「デジタル」。アナログが情報を電圧や電流などの物理量で表すのに対して、デジタルは数字で表す。
 それが転じて、「新しいもの」をデジタル、「古いもの」をアナログと表現されている。
 デジタルに漠然と付与されたイメージは「コンピュータ」「ハイテク」「科学的理論」「理系」。アナログには「ローテク」「勘」「情緒」「文系」といったイメージがある。
 鬼才・ビートたけし(70)がこの秋、「アナログ」という自身初の恋愛小説を著した。
 すべてがデジタル化する現代社会で、男女が出会い、素性も連絡先もわからないまま、惹かれ合う。携帯電話もメールも使わずに心を通い合わせ、思いを深めていく。「会いたいと思う気持ちがあれば、絶対に会える」という不器用な、アナログ的約束をし合う。(ネタバレになるのでこれ以上は書きません)
 たけし氏はNHKとのインタビューでこう宣(のたまっ)ている。
 「体の衰えで、こういう小説を書くにはちょうどいい感じになった。地獄絵図のような最悪な男女関係も経験して、今だったら純粋な恋愛をしてみたいと思う」
 会えなければ会えないでいい。デジタルで来ないわけを根掘り葉掘り聞き出す野暮なことはすまい。待ち人が来ないことをきっかけにもう一度、その人のことを考えることだって出来る———。
 アナログ的な「情緒」が薄れつつある。「説明責任」なんていう言葉が流行っていて、なんでも口に出して説明しないといけないような「不文律」が罷(まか)り通っている。
 が、人には言葉では言い表せないことだってある。薄っぺらなツィッターなどでは伝えられない心の襞がある。
 たけし氏は、恋愛小説にかこつけて、「デジタル万能社会」を痛烈に揶揄(おちょくっ)ている。【高濱 賛】

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