その人には片耳がなく、顔の至るところにはやけどの跡が残っていた。その傷跡は炎の恐ろしさを静かに物語っていた。
 以前、取材で向かった式典にロサンゼルス市消防局の隊員が出席していた。ちょうど山火事が発生していた時期で、救援要請にいつでも応えられるよう、彼らが着席していた席の脇には無線機が置かれていた。式典の間中、彼らは逐一無線で連絡を取り合い、表情からは緊張感が漂っていた。
 やけどの傷跡が残るその人は隊員の1人だった。おそらくやけどで耳を失ってしまったのであろうと想像した。生々しいやけどの傷跡が残ってもなお、人々の生命を救うため職務を果たしている姿に「ヒーロー」をみた。
 消防隊員は危険な状態の中でも炎に立ち向かい消火作業にあたる。特にカリフォルニアは山火事が多い。彼らは常に自然の威力の凄まじさと戦っているのだ。
 今まさに南カリフォルニア各地で山火事が猛威をふるっている。ベンチュラ郡の山火事は、地元消防局だけでは消火作業が追いつかず、他州11州の消防当局からも応援がきている。
 筆者が北カリフォルニアで学生時代を送っていた時も近隣で山火事が発生した。美しいカリフォルニアの青空は瞬く間に辺り一面が煙に覆われ、空からは灰が降り注いだ。
 地元消防当局だけでは火の手を止めることができず、その時もカリフォルニア州各地の消防局から応援がきた。
 街のいたるところに「Thank you firefighters」と書かれた垂れ幕や旗が掲げられ、危険な作業に従事する消防隊員に対して、街中から感謝の気持ちが溢れていた。
 友人は街で消防車を見かけると、乗車している消防隊員に向かって必ずピースサインを送る。聞けば「Thank you」の意味を込めているという。彼に気付いた消防隊員もすかさず笑顔でサムズアップ(親指を立て「Good」を表すサイン)の合図を返してくれる。日本ではない光景だと思う。市民のため、危険な任務に従事している人に敬意を表す米国のこうした精神は素晴らしいと思う。消火活動にあたってくれているヒーローたちに敬意を表すと同時に、一日も早く山火事が終息にむかってくれることを願う。【吉田純子】

Leave a comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *