5月になってすぐのある日、ギタリスト井上堯之さんの訃報が流れた。「スパイダーズ」の元メンバーで、「太陽にほえろ!」のテーマソングや近藤真彦のヒット曲「愚か者」の作曲家として知られた人だ。
 過去に井上さんと仕事をする機会が一度だけあった。もう15年も前のことだ。井上さんが当時所属していた芸能事務所の他のアーティストと仕事をしていた縁で、LAでのライブを企画することになった。
 当時の私は井上さんのことを知らず、「スパイダーズ」の元メンバーと言われてもピンとこなかった。「太陽にほえろ!」は有名なので「ああ、あの曲を作った人」とようやく親近感が湧いたが、それでもギターを演奏している姿は浮かんでこなかった。
 ビバリーヒルズのホテルで到着を待つ間の緊張感をまだ覚えている。ネットで検索した画像からは温厚そうなイメージが伝わった。けれども自分の親と同じ年齢で、その世代に大人気だった「スパイダーズ」メンバーとの面会を前に、自ずと背筋が伸びた。
 井上さんはトレードマークのようにしているキャップをかぶり車から降りた。あいさつを交わした時のくしゃっとした笑顔には「良い人」オーラが満ちていた。
 打ち合わせの時も雑談の時も、彼の物静かな語りは場を和ませた。目の前でギターも弾いてくれた。「あなたたちが知っているのはこれでしょう」と「太陽にほえろ!」のイントロ部分を指で弾いた。今となっては本当に失礼な話だと思うが、その姿を見て初めて「ギタリスト井上堯之の凄さ」が私に伝わった。「ショーケン(「太陽にほえろ!」に出演した俳優、萩原健一)の死ぬ場面」と言いながら、スローテンポで挿入歌を弾くユーモアさも心に残っている。
 スタジオシティーの老舗ライブハウスで一晩のみのライブだった。企画、営業、アテンド、音響、さらには照明の指示出しまで、ほとんどやった記憶が蘇る。
 経験不足の若者が準備したステージでも終始寛大な態度を貫き、素晴らしい演奏を当地の日本人に聴かせてくれた井上さん。心よりご冥福を祈る。【麻生美重】

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