映画の中の1シーン。森の中の廃墟の前でたたずむ坂本龍一(写真=SKMTDOC, LLC、提供=MUBI)
音楽と思索の旅捉える
音楽家の坂本龍一の音楽と思索の旅を捉えた初のドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto : CODA」がロサンゼルス各地の劇場で13日から上映される。本作が映画初監督となるスティーブン・ノムラ・シブルが、作曲家であり演奏家、プロデューサー、そして環境活動家などさまざまな顔を持つ坂本に2012年から5年にわたって密着取材し、プライベート映像のほか、坂本自身が語る貴重な過去のエピソードなどを収めた。
坂本は幅広いジャンルで活動を続けていたが、90年代後半になると社会問題や環境問題に意識を向けるようになった。そしてその変化は彼自身の音楽にも現れていく。
そんな坂本の東日本大震災以降の音楽表現の変化に興味を抱き密着取材を始めたのがシブル監督だった。シブル監督はソフィア・コッポラ監督の「ロスト・イン・トランスレーション」でプロデューサーを務めたことでも知られる。
震災から3年が経った14年3月11日、坂本は自ら防護服を着用し福島第一原発を囲む帰還困難区域に足を踏み入れ、無人の地と化した集落の残像の音に触れた。「見て見ぬふりをするのは僕にはできないこと」。首相官邸前で行われた原発再稼働反対デモにも参加しスピーチした。
多方面において精力的に活動していた坂本だったが、14年7月に中咽頭ガンを公表。1年近くにおよぶ闘病生活を経て、音楽活動を再開。坂本の新たな構想は、外界の音を音楽としてとりこみ、混然一体となった「自然の音」を聞くことだった。「持続する音への憧れ、ある種の永遠性への憧れかもしれない」と坂本は語る。
そしてあの被災したピアノにも立ち返る。「今はあの壊れたピアノの音色がとても心地よく感じる」と話す。調律が著しく狂っていると感じた音だったが、それは人間が勝手に決めた「調律」に過ぎない。津波に流され「自然の調律」を受けたピアノの音はやがてサンプリングを通して坂本の作曲プロセスの一部になり、新たな表現へと生まれ変わっていく。
人間の生物学的なルーツを追い求め、アフリカや北極圏など世界各地を旅し、さまざまな「音」を自ら録音しながら音楽の原点を探し始める坂本の姿を追ったドキュメンタリー。ロサンゼルス上映の日時など詳細は劇場ホームページ―
www.laemmle.com/