幼虫時代とは全く違う形体へと変身する蝶や蝉に興味を持ち、調べていたら渡り蝶の存在を知り驚かされた。アサギマダラというアゲハ蝶で、5月頃から初夏にかけて羽化し日本各地で見られる。ちょっと見たかぎりでは一般的なアゲハ蝶だが、羽の下部の模様に浅葱(アサギ)色が入っていることからアサギマダラと呼ばれる。
 秋口になると南下を始め日本本土から沖縄さらには台湾、または香港までの2500キロもの長距離の渡りが確認されている。2週間ほどの時間をかけ1日200〜300キロを移動する。大陸横断なら途中の中継地なども容易に想像できるが、ほとんどの行程が海上にならざるを得ないことを考慮すると、驚きは更に増す。天候を察知する能力もあるようで、嵐などの風を利用して移動するようだ。
 アサギマダラの一生は4〜5か月なので、南下した蝶と北上してくる蝶は当然別の蝶だ。つまり南下した先で孵化、羽化した蝶がまだ見ぬ土地、日本にやってくる。世代を股がって渡りの行程を完了する。マーキングをされた蝶から南下、北上の道程が違うことも確認されている。
 アサギマダラは日本で唯一の渡り蝶だが、ここアメリカにも同じような渡りをする蝶がいる。合州国ではモナーク・バタフライ (Monarch Butterfly) と呼ばれるアゲハ蝶で、日本語名はオオカバマダラ。4世代にわたってメキシコとカナダを往復する。初代がメキシコからカナダに渡り、復路のカナダからメキシコへは3世代もしくは4世代を経て達成され、その飛行距離は5千キロを超える。カリフォルニア沿岸沿いのサンタバーバラ、サンタクルーズ地区で10月半ばから2月にかけて良く見かけられる。近年森林伐採の影響で絶滅の危機に瀕しているのがとても 残念だ。
 どちらの蝶の場合もその方向察知能力は勿論、世代を超えて使命を継承するなど、人知では計り知れない超能力で長旅を全うするのだろう。そしてその行程は同じ地域やルートを通るだけでなく、先代が留った同じ木などに舞い戻ることもふくまれる。
 トランプ氏がメキシコとの国境に急ピッチで高い壁を巡らせているが、 残念ながらこの蝶にかかってはお手上げだ!【清水一路】

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