朝顔につるべ取られてもらい水、との一句を数十年ぶりに思い出した。
 それほど広くもない庭だが、わが家の裏庭は塀で囲まれており、安全な場所となっているらしい。4月のある日、台所仕事をしていると、頭上にちょうちんを掲げたようなウズラの雄が塀の上にじっと止まっているのに気付いた。目を凝らすと、地面を動くものがあり、こちらは全く保護色の雌ウズラ。父さんウズラはそのまま小一時間近く母さんウズラの食べ終わるのをじっと見守り、その忍耐と優しさに驚いてしまった。
 2匹はそれから毎日のように通ってきては、鳥の餌台をつるした枝近くの地面に少しずつくぼみを作っていく。これは困った、そこで巣作りされては鳥の餌台に近すぎる。仕方がない、新しく餌台を買ってきて別の場所につるすかという話にまでなって、先の句の登場となった。
 しかし、一週間もすると、人の気配に気付いたか、よそに適地を見つけたかして巣作りは中止となった。私たちはこの10年ほど毎年、夏までの数カ月は日本の親の介護などでシアトルを留守にしていたので、繁殖期を迎える動物には都合の良い場所となっていたようだ。そういえば昨年は、日本から戻ってくると大きな植木鉢の中に子ウサギが3匹生まれていた。
 うれしいことにウズラの夫婦は、それからもほぼ毎日姿を現している。巣作りは諦めたものの、餌台からこぼれ落ちる種子に引かれて立ち寄るのだろう。
 手元の鳥類図鑑で見ると、カリフォルニア・クエイルとあり、日本名はカンムリウズラ。雌よりもカンムリの大きい雄は、黒い顔を周囲の白線がきりりと引き締め、胸元の青みがかった灰色も美しい。何よりも、ちょこまかと種子や虫をついばむ雌をじっと見守る姿が、見る者をとりこにする。聞けば、カリフォルニアの州鳥とか。
 コロナ禍で日本に出かけられずシアトルに足止めとなった形の私たちだが、その結果ウズラ夫婦との遭遇があり、ワシントン州花である石楠花(シャクナゲ)が満開の美しい春も体験中。災難の中でも、一つくらい良いことはあるものだ。コロナでつらいこの時期、皆さんにも何か良いことがありますように。(楠瀬明子)

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