学生時代、暇さえあれば時刻表を眺めている友人がいた。どこか旅行に行く予定でもあるのか尋ねると、ただ旅に出た気分に浸っているだけだという。今思うと時代の最先端を行っていたのかもしれない。
 自由に旅ができなくなってもう久しい。イベントも延期や中止になる中、新しい楽しみ方やその提供の仕方をみんなが模索している。
 ロサンゼルスやニューヨークでは早々にハロウィーンイベントの中止が発表されたが、東京・渋谷では「もう一つの渋谷」を仮装空間上に作ってイベントをするという。スクランブル交差点に仮装した若者が殺到する様子は恒例になっていた。
 渋谷区長は「今年は来ないで」と呼び掛けている。その代わりのバーチャルイベントは、新型コロナ感染防止のため街に人が集まるのを防ぐ試みであると同時に、コロナ禍でもエンタメの街・渋谷の魅力を発信し続けることがその目的だという。最先端のテクノロジーを駆使し、行政と企業が連携して課題に取り組むモデルケースとして注目されている。
 いつまた自由に旅行ができるのだろうか。これからはバーチャルリアリティ(VR)の技術で現実とバーチャルの世界を行ったり来たりするのが当たり前になるのだろうか。実際、航空会社ではバーチャルトリップのサービスを始めている。こうした取り組みは、来年開催予定の東京五輪でも生かされるような気がする。
 結婚式もお葬式もオンラインで行うことに驚きがなくなった。これまで当たり前だったことができなくなることに慣れてくる中で、どんなものでも受け入れる寛容さが私たちの間に生まれているのかもしれない。
 そんな矢先、ハワイへの旅行が11月末から解禁されるというニュースを聞いた。事前にPCR検査を受ければ隔離は免除されるそうだが、帰国時は再度の検査と2週間の隔離が待っていると思うと、さすがにまだ行く気にはならない。
 それにしても時刻表だけで旅を楽しめるなんてうらやましい。私もせめてガイドブックや小説から空想を膨らませて、旅に出掛ける高揚感を味わいたい。【中西奈緒】

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