2020年の大統領選挙はトランプ、バイデン両候補の激戦となった。両候補とも非難の応酬で、世界の民主国家をリードするアメリカの大統領選挙という、理念と政策をめぐる高邁(こうまい)な論戦は少なかった。投票結果はバイデン候補の勝利のようだが、トランプ候補は訴訟で争う姿勢を崩していない。
 20世紀末のコンピューター技術の急速な発達で、技術や経験がなくても大量生産が可能になって工場は賃金の低い発展途上国へ移転した。販売もクレームがあれば簡単に製品を交換し、故障箇所は基盤交換で済む。こうして途上国に巨大な新市場が出現した。ITの発達で通信や交通手段も進化し、情報や知識、人や物が国境を超えて自由に行き交うグローバル化が出現したのである。
 大統領選が接戦となった原因は、国の中核をなす中間所得層が急速なグローバリゼーションとITの発展から取り残され、職場を奪われたという不満があった。トランプ候補はこの不満をあおって、「悪いのは君たちではない」と自国ファーストを掲げ支持者をつかんだ。この富の偏在による分断をどう解決するか。ヒントは建国当時の共存共栄の理念にあるのではないか。
 ウェザーフォード著、「アメリカ先住民の貢献」によると、人々が新天地で自由に自分たちの意思を反映できる理想的な国を創ろうと独立した当時は、世界のどこにも民主国家はなく、憲法制定の参考にしたのが先住民のイロクォイ同盟だったという。イロクォイ同盟の集会では、評議員の発言の後しばらく沈黙を保つ。言い忘れはないか、修正はないかと発言者に考える時間を与え、充分に意見を尽くさせる。どの意見も自由に言えて常に発言者への敬意が保たれる、共存共栄を基調とする部族同盟だった。
 民主憲法の下、13州でスタートした合衆国は、新規開拓地を植民地ではなく準州とし、住民が増え発展すると対等な州として認めた。こうして国土は拡張され、現在の合衆国になったのである。
 トランプ大統領の治世で国内のみならず多くの同盟国が傷つき、国際社会は傷ついた。新大統領は共存共栄で分断を修復し、大国の矜持(きょうじ)を保ってもらいたい。【若尾龍彦】

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