このところ、外出は食料品の買い出しに週に2度ほど。新聞やインターネットで情報を得るほかは、まだ人との接触、外界との接触のほとんど無いままに過ごす毎日だ。
 そんな中で、先月の在シアトル総領事館からのメールには驚いた。市内インターナショナル地区でアジア系女性が襲われけがをする事件が起きたので、注意するようにという内容。やがて、被害者が日本人女性でアジア系へのヘイトクライムだったのではないかとの報道が続いた。当地でもかと残念に思ううちに、「気を付けて下さいね」と知人から電話も入った。
 頭に浮かんだのは、かつて似た思いをした時のことだ。
 日米貿易摩擦でジャパン・バッシングの盛んだった1989年、シアトル日本語補習学校の教師の一人が、運動会の競技指導中に空気銃のようなもので顔面を撃たれた。幸い生命に別条はなかったが、弾は鼻骨の中に留まり、数ミリずれていれば失明の危険さえあった。時が時だけに、補習校がジャパン・バッシングの標的になったのではないかと、事件を知った時は困惑と怒りを感じたものだ。
 結局、犯人は13歳の少年だった。今回の襲撃犯も、捕まりはしたが、犯行動機は明らかにされていない。しかし、各地で起きるアジア系市民へのヘイトクライム報道で神経過敏になる今、怖さを身近に感じさせるに十分な事件だった。
 数か月の我慢と思って始まった新型コロナに翻弄(ほんろう)される生活は、もう1年以上続く。これまでにアメリカだけで感染者は3150万人、死者57万人。感染を免れても、仕事や学業、生活への制約は、誰も想像したことのないほど。この状況に不満の募る者は少なくないだろう。
 今ヘイトクライムとしてアジア系市民が狙われるのは、新型コロナがらみだ。前大統領は、感染対策に真剣に取り組もうとせず、ウイルスをチャイナウイルスと呼ぶことに固執した。そんなことも影響しているだろうか。
 人の心にすむ偏見や不満を取り除くのは、容易ではない。しかし、それらが犯罪を引き起こすことは許されてはならない。「ヘイトクライム許すな」との抗議行動や大統領メッセージについての報道を頼もしく思っている。【楠瀬明子】

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