アメリカでは毎年、優秀な教師を選出して大統領が表彰する「National Teacher of the Year」がある。今年は、ラスベガスの小学校で特別支援教育に携わるジュリアナ・アートゥベイ先生が選ばれた。ラテン系としては15年ぶりの受賞で、自身のアイデンティティーに誇りを持つ生き方を体現する期待の若手だ。
 私が影響を受けた先生に、中学の担任だった川合先生という男性教師がいる。ヤンキー全盛期の昭和60年代、私が通っていたのは市内で最も荒れていた公立中学校で、これを言うと驚かれるのだが、授業中に廊下をオートバイが走ったり、泥酔した先輩の叫び声がよく校舎内に響いていた。
 生徒指導部の川合先生は、生徒と日々向き合っていた。病弱な痩せ型で、学ランのすそが膝下まである男子生徒ともみ合いになるとメガネがずれ落ち、よく倒れそうになっていた。複雑な家庭環境の男子生徒が、オートバイ事故で亡くなる悲しい出来事もあった。
 命の大切さについて話し合ったホームルームの時間、先生は高ぶる感情を隠そうともせず、教壇の机を思い切りたたき、手のひらを真っ赤にしていた。先生の結婚式に、クラス全員がサプライズで駆けつけ、先生の名前を入れて替え歌にした「てんとう虫のサンバ」を大合唱した良い思い出もある。
 数年前の日本帰国時、川合先生がおいの中学の校長に就任されたと知り、会いに行った。あの頃の情熱は健在で、オートバイ事故で亡くなった生徒のことをまだ悔やんでいた。この生徒の母親が、貯めていた養育資金を寄付してその後、中学校の図書館に設置された文庫コーナーのことや、立派な社会人になった元ヤンキーの教え子のことなどを話してくださった。
 今回カリフォルニア州で選出された優秀教師賞の受賞者に、サンタクラリタのソーガス高校で社会を教えるジム・クリプフェル先生がいる。同校で一昨年起きた生徒による発砲事件では、真っ先に現場へ駆け付けた教師の一人。子供らの心の傷がまだ癒えぬ中での同賞への推薦を、本人は断ったのだそうで、「メダルや賞をもらおうと思って、プロの教師を目指す人はいない」と、周りの優秀な同志をたたえた。
 教師も生徒も十人十色。子供が成長した時、それぞれの心に「優秀教師」との思い出がありますように。【平野真紀】磁針

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